また『ボク』なんだ

 不在のシャルシャーンは何処にでも居るし、何処にも居ない。

 此処に居るシャルシャーンですら、「不在のシャルシャーン」という無数の欠片のうちの1つに過ぎない。

 勿論、ドラゴンクラウンを持つ「コア」たるシャルシャーンも存在するが、それとて「そのシャルシャーン」が何かの要因で死ねば別のシャルシャーンに移動する。

 そして、シャルシャーンの総数が減ることは絶対にない。


「……意味が分からない」

「本来の『不在のシャルシャーン』だったものは、随分昔の戦いでそういう風になってしまったんだ。世界の敵を磨り潰す為には、そこまでやらないと潰しきれなかった」

「世界の敵、か」

「まあ、同じボクであろうともそれだけ居れば違う考えを持つ者も現れる……ってね。さあ、回復は終わったよ」

「ああ、ありがとう」


 キコリはゆっくりと立ち上がり、鎧を解除する。見た目には何処にも損傷はなく、身体の動きも問題はない。


「助かる。正直、仲間に心配かけたくないし」

「それが分かって無茶をする。ま、無茶せざるを得ない状況だったかな?」

「……もっと早く助けに来てくれてたら、そんな無茶はしなかったと思うんだが」


 キコリがそんなもっともすぎることを言えば、シャルシャーンは肩をすくめてみせる。


「ボク同士の戦いは正直、何もかも吹っ飛ばしかねないんでね」


 そう言われてしまえばキコリとしては何も言えないが……近くにオルフェとドドが寝ているのを見て、シャルシャーンに頭を下げる。


「言うのが遅れたけど、ありがとう。俺1人じゃ、全員失うところだった」

「ああ、あの妖精騎士のことを気にしてるのかい。別に気にすることじゃあない。生きながら死んでいるよりは、ずっとマシな死に様だっただろうさ」


 確かに、フェイムは満足そうだった。それが正しいのかはキコリには分からないが……ユグトレイルには、悲しい報告をしなければならないだろう。

 妖精女王の一行は恐らく全滅……誰1人として連れ帰ることもできない。


「そうだ、シャルシャーン。どうしてオルフェは未だに妖精女王になっていないんだ?」

「ん? んんー……それかい。それなんだけどねえ、ちょっと面倒そうなことになってるんだよね」

「面倒そう……? シャルシャーンがそこまで言うほどなのか?」

「……なんだ」

「えっ?」

「また『ボク』なんだ。ほんっとーにすまない! 今別の『ボク』が追いかけてるから、今度は君任せにせずにぶっ殺すから! ちょっと待っててほしい!」

「あー……」


 それもあってこのタイミングで出てきたんだな、とキコリは何となく分かったような表情になる。

 どうやら『不在のシャルシャーン』も、色々と大変であるようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る