アレもボクなんだよ

「お前はもう、持ってるだろ」

「うーん。そこがボクの難しいところでね。シャルシャーンという群体のパワーバランスを崩すつもりって言うと分かるかな?」

「分からん」

「そうかい。ま、簡単さ。『不在のシャルシャーン』はボクを主にして生まれ変わる。君を喰らってね」


 なるほど、ドラゴンクラウンはドラゴンがドラゴンたる証だ。それを奪うなんて出来るのかは分からないが……シャルシャーンであれば何かできるような手段を持っているのかもしれない。

 しかし、そんなものは今は関係ない。死ねば全部奪われる。ただそれだけの話だからだ。


「さあ、ではさよならの時間だキコリ。後輩と遊んでみるのも楽しかったよ」

「ああ、さよならだシャルシャーン。尊敬できない先輩だったよ」


 キコリがドラゴンブレスの為に集めた魔力が。バヂッとスパークした。


「え」


 放つ直前。シャルシャーンは心の底からの驚愕の表情を浮かべる。

 キコリの眼前の雷球の輝きが増して、スパークが激しくなっていく。

 それはグレートワイバーンを倒した時にキコリが放ったドラゴンブレスと同じもの。


「馬鹿な、君は。それなら、何故」

「前に会ったシャルシャーンなら知ってたはずだぞ」

「くっ……! キコリィィィ!」


 夜空を凝縮したようなブレスが。そして、落雷の如きブレスがぶつかり合う。

 落雷は夜空を切り裂いて、やがてシャルシャーンへと到達しその身を灼いていく。

 それは……キコリの得意魔法「ブレイク」のそれにも似ているだろう。

 名付けるなら……破壊のブレス。文字通りキコリらしい破壊のブレスを受けながら、シャルシャーンは小さく笑う。


「なるほど、死王のキコリ。何もかもを無に帰すか……残酷な運命を背負ったものだね」


 そう言い残して、シャルシャーンは消滅して。キコリは鎧を解除しないまま、その場に倒れ伏す。

 分かっている。キコリはすでに死にかけている。

 どうしようもないほどに、限界点を超えているのだ。だから、もう。


「いや、死なないよ」


 回復魔法の輝きがキコリを包み、その身体を急速に癒していく。

 全ての法則を無尽蔵の魔力でぶん殴り変えさせるようなこの力技は、まさしくドラゴンの魔法。

 そう、先程までの黒髪ではなく、金髪のシャルシャーンがそこに立っていた。


「シャル、シャーン……!」

「はい、動かない。まだ君の相棒は動けないしね。ボクがやっとかないと、一生恨まれそうだ」

「あそこまでやって、まだ生きてるのか……」

「アレは死んだよ。そこは安心していい」


 キコリに回復魔法をかけ続けながら、シャルシャーンは「どう説明したものかなー」と迷う様子を見せる。


「まあ、なんだ。アレもボクなんだよ。だからボクをやめたくなったのかもしれないね」

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