たいしたことじゃないさ
「フゥー……」
大技の反動にキコリは大きく息を吐く。手加減一切なしの一発。
これで倒せずとも次の手を打つべく、キコリは斧を構えて。
しかし、自分の眼前に現れたシャルシャーンに、驚きに目を見開いたまま魔力の波動で吹っ飛ばされる。
「ぐっ……!」
「さっきのドラゴンブレスはダメだな。あんなものでボクを殺そうなんてふざけてる」
魔力の波動がキコリを連続で吹っ飛ばし、空へと打ち上げる。
それはキコリの鎧を砕くには至らず、シャルシャーンは軽い調子で口笛を吹く。
「いいね。竜鱗の強度は充分だ。とはいえ、ドラゴン以外が相手なら……だが」
シャルシャーンが何かをしようとした、瞬間。キコリが「ミョルニル」と唱え電撃纏う斧を投擲する。
「おっと」
「ミョルニル」
当然のように避けたシャルシャーンは、自分自身にミョルニルをかけ稲妻のように落下してくるキコリを「ほう!」と声をあげて見つめる。
当然、シャルシャーンは回避するが……地面に撒き散らされ広がる電撃に一瞬足を止めて。
「ミョルニル!」
「ははっ!」
地面を蹴ったキコリを包む電撃の体当たりが、今度こそ命中し電撃をその身体に流し込む。
だが、それでもシャルシャーンは平然とした表情でキコリを腕を振るい切り裂く。
竜爪。ドラゴンのもっとも基本的な武器にキコリの鎧に大きな傷がついて。同時にキコリの横薙ぎに振るった斧がシャルシャーンにガツンと食い込む。
その斧がシャルシャーンを両断するより先に、シャルシャーンの腕がキコリの斧を跳ね飛ばしキコリを蹴り飛ばす。
キコリの鎧が自動で修繕されていくのと同じように、シャルシャーンの傷も修復されていく。
そして……シャルシャーンはたまらないといった風に大笑いする。
「ハハハハハ……ハーハハハハハハ! いいね、楽しいね! ボク1人分であれば充分すぎる程に楽しめる強さだよ、キコリ!」
キコリは、答えない。ただ、黙って斧を構えて。フルフェイスの兜の奥の表情は伺えず……ただ、冷静にチャンスだけを狙っていた。
「とはいえ、だ。そろそろいいかな? 死ぬ時間だ、キコリ」
シャルシャーンが魔力を集めていく。それは光の粒を無数に内包した漆黒のような色をしていて……本気のドラゴンブレスを放とうとしていることが見て取れる。
「……答えろ、シャルシャーン」
「ん?」
「何がしたいんだ、お前」
正直、意味が分からない。此処に居るシャルシャーンが前に会ったシャルシャーンと違うとしても、此処で殺し合う意味は不明のままだ。
そんなものなど分からなくてもいいのかもしれないが……キコリもドラゴンブレスの準備をしながら、そう問いかける。
知ることで何かが変わるわけではない。ないが……キコリは、そう問いかけた。そして。
「なあに、たいしたことじゃないさ。ボクが主導権を握ってみようかと思ってね。君のドラゴンクラウンを、ちょっと喰らってみようかと思ったんだ」
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