バーサーカーとしての極限
だから、キコリはシャルシャーンを確実に殺すための準備を始める。
今まで、手加減していたわけではない。キコリに可能な全力だった。
勿論シャルシャーンの言ったように「奥の手」はある。
しかし、使えば確実に死に至るような……そんなものだった。あの場にはシャルシャーンがいたからこそ死なずに済んだが、今はそのシャルシャーンが敵であり、オルフェは囚われている。
だからこそ、使えば死ぬ。いや、キコリが僅かとはいえ無茶に適応している以上、生き残る確率はほんの僅かではあるが、存在するかもしれない。
だから、キコリはそれをやる。
他の全てが無駄で、それで勝てるかもしれないならば。生き残る確率も僅かにあるならば、キコリにとっては「やらない理由」が存在しない。
それは間違いなくキコリがバーサーカーたる理由であり、人と違うモノになった証拠でもある。
だから、キコリは。自分にチャージする魔力の上限を全て取り払って。その身体を、鎧のような竜鱗で覆い尽くす。
その手には、斧。キコリがキコリたる所以。何処まで行こうと、これだけは変わらないけれども。
放つ圧は、完全にドラゴンそのものであった。
そう、これこそ此処に居るモノとは別のシャルシャーンがキコリに仕込んだ『竜化』。ドラゴンがドラゴンたる理由である、世界の魔力そのものを無制限に振るうことによる無限の強化。
そして、それに耐えられぬ身体の急速な破壊。それを誤魔化すための全身の鎧。全てが消えるその瞬間まで全力を振るう為の、その武装。
つまるところ、負けてはいけない戦いで勝つ為だけの最終兵装。それ以外の全てを放棄した、バーサーカーとしての極限。
キコリはそれを纏い、シャルシャーンへと突っ込んでいく。
「死ね、シャルシャーン」
「断る。君が死にたまえ」
キコリの斧と、シャルシャーンの手がぶつかり合う。
2人の間で輝きスパークするのは、無尽蔵の魔力のぶつかり合いがもたらすもの。
それが弾かれた瞬間にキコリは体勢を低くし、シャルシャーンの足を蹴り払う。
「うおっ……!?」
体勢を崩したシャルシャーンを蹴り飛ばし、オルフェからもドドからも引き離しキコリはシャルシャーンに追撃をかけていく。
「ああ、なるほど! 余波を心配したわけだね! ハハ、優しいなあ君は!」
キコリは答えない。まるでドラゴンの頭部のようになったその兜の前面に魔力を集めていき……シャルシャーンは「おや」と意外そうな声をあげる。
「もうソレかあ……とはいえ、ソレじゃあ無理だとは思うけども。ま、やってみたまえ」
シャルシャーンも同様に自分の前に魔力を集めていく。
キコリとシャルシャーンの間で輝く光は球となり、眩い程に輝きを放つ。
ドラゴンブレス。ドラゴンの象徴たる2つのエネルギーの奔流がぶつかり合い……やがてキコリが押し勝ち、シャルシャーンのいる場所を吹き飛ばした。
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