無限であり一である

「そうか。つまり、貴様が全ての原因か」

「全ての原因」


 言われてシャルシャーンは考えるような様子を見せ、やがて二カッと笑う。


「なるほど、確かにボクが全ての原因だ。あのトロールが何をやるか知っていて囁いたしね。とはいえ、勘違いしないでほしいんだが」

「シャル、シャーン……!」

「おや、予想より早いね。傷が癒え切っていないはずだが」


 シャルシャーンが視線だけを向ければ、そこではキコリがよろよろと立ち上がっている。


「言い訳を、言え。俺がその一言で、納得せざるを得ないようなものを」

「言わないとどうなる?」

「ぶち殺す」

「いいね! なら絶対言わないことにしよう!」

「そうか」


 キコリの手に斧が生成され、キコリはシャルシャーンへと襲い掛かる。

 振るった斧はしかし、シャルシャーンに素手の一撃で硝子のように砕かれる。


「甘い甘い甘い! 様子見かい!? 効くはずがないだろう!」

「ブレイク」

「おっ?」


 触れた手から「破壊」がシャルシャーンへと流れ込む。それはシャルシャーンを微塵と化すべく荒れ狂……わない。

 まるで何もされていないかのようにシャルシャーンは微笑んでいる。

 対して、吐血したのはキコリのほうだった。


「いいね。遠慮も一切なかった。君の言う『無茶』も今、かなりやったね? でもまあ、足りない。ドラゴン以外になら通じるけどね」


 シャルシャーンは一歩も動かないまま、キコリは吹っ飛ばされる。そして、背後から迫っていたドドもシャルシャーンは一歩も動かないまま吹っ飛ばす。


「ぐはっ……」

「そこでもう少し寝ていたまえよ、オーク。今いいところなんだ」


 答えを待つこともなく、シャルシャーンはキコリへと歩み寄っていく。その表情を笑顔で固定したまま、とても気安い友人のようにシャルシャーンはキコリへと話しかける。


「キコリ。あっちのボクはそんな半端な真似を教えなかっただろう」

「何を……」

「あるんだろう? 本当の奥の手が。使うのを躊躇うようなものが!」

「何を言ってる。お前、シャルシャーンじゃないのか……?」

「いいや、ボクは確かにシャルシャーンさ! 無限であり一であるシャルシャーンの中で、ちょっと変わり者というだけでね!」


 意味が分からない。キコリには、意味が分からない。

 しかし、シャルシャーンは「そういうドラゴン」だ。同時に何体でも存在できるが故に、その全ては独自の考え方を持っている。違う考え方をもっているからといって、それが偽物ということにはならない。ならないが……しかし、キコリにとって「敵」であることだけは間違いなかった。

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