自信過剰
「ぐ、う、お……」
「おや」
シャルシャーンは振り返ると、倒れていたドドが起き上がるのを見た。
先程音もなく気絶させたドドだが、どうにも目が覚めたようだった。
よろよろと起き上がったドドは倒れたままのキコリと黒髪のシャルシャーン、そしてシャルシャーンの横で光の珠に閉じ込められる形で浮いている、意識のないオルフェを見て……その目を驚愕で見開く。
「色は違うが……『不在のシャルシャーン』……! 何を、している!」
「何って。見て分からないかい? 『敵』を、やってるんだよ」
敵、という言葉が聞こえたとほぼ同時にドドはメイスを握りシャルシャーンへと突進する。
ハイオークに進化したドドの膂力は、以前シャルシャーンと会った時と比べても格段に上がっている。
とはいえ相手は最強生物たるドラゴン。勝てるはずもない。勝てるはずもないが……。
(オルフェは、取り戻す……!)
正直、ドドにはオルフェがあんな扱いを受けている理由が分からない。だが、分からなくてもいい。ドドは自分が馬鹿だと分かっているから、考えることは動きを遅くするだけのリスクだ。
頭の中に置いておくべきは、やるべきこと、そして優先順序だけだ。それさえ間違えなければ、後はどうにでもなる。
「ぬうん!」
全く動かないシャルシャーン相手に、ドドは全力でメイスを振るって。凄まじい音の響いたその一撃を、シャルシャーンは避けることも防御することもなく受けた。
「なっ……」
「何故だ、かな? そこに倒れてる後輩なら通じたかもしれないが、ボクには無理だ。というか、あれだな……」
シャルシャーンは手を伸ばし、ドドへと触れて……放たれた魔力の波動が、ドドの巨体をいとも簡単に弾き飛ばす。
「ぐおっ……」
「君如きがボクを僅かでもどうにか出来ると思うのは、自信過剰だよ。嫌いじゃないがね」
言いながらシャルシャーンは「ああ、そういえば」と思い出したように呟く。
「そういう意味では、あのトロールも自信過剰が凄かったな。まあ、アレは嫌いなタイプだけど。何だっけ? えーと……そうそう。バルムンクだ」
言った瞬間、シャルシャーンの手に「竜殺魔法バルムンク」が現れる。ただ相手に射出するだけのその魔法を、まるでシャルシャーンは本物の剣であるかのように握っている。
「発想は正しい。威力を高めて竜鱗を貫かんとする……至極当たり前の発想だ。とはいえ、命も賭けない程度の魔力で竜を殺せると思うのは愚かしい。だから負けたんだろうな。折角助力してあげたのに、実に無駄だった」
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