異端児

「……何、アンタ」

「そうだな。完璧なキコリって言ったら納得するかい?」

「するわけないでしょ」

「だよねえ」


 くっくっと笑う「キコリ」を見ながら、オルフェは冷や汗を流す。

 目の前のコレが何者であれ、ドラゴンであることは恐らくだが確実だ。

 流れてくる圧に……慣れたくはないが、大分慣れてきたからこそ分かる。

 そして……だからこそ、判別できるものもある。それを口にするのは、大分怖いのだけれども。


「その口調、態度。覚えがあるわよ」

「へえ?」

「シャルシャーン。アンタ、何のつもり?」


 言われて「キコリ」は驚いたように目を見開き……やがて「ああ、なるほど」と頷く。


「別のボクに会ったことがあるんだね。なるほど、さぞ良い奴ぶってたんだろうね」

「何処にでもいるし何処にも居ない……だったかしら。見えてきたわよ、アンタっていうドラゴンの正体……」

「へえ、聞こうじゃないか」


 面白そうに微笑む「キコリ」に、オルフェは自分の中で出した答えを告げる。


「群体なんでしょ? たぶん『不在のシャルシャーン』になり得る何かは世界中に散らばってて、必要に応じて姿を為す。それがどういう理屈かまでは分からないけど、限りなく不死に近くて0にも1000にもなり得る不確定存在……言ってて恐ろしくなってきたけど、たぶんそういう無茶苦茶な『何か』なんでしょ」


 拍手が響く。『キコリ』が心からの笑顔で拍手をしていて……それがキコリに物凄く似ているのが、オルフェには気持ち悪くてたまらない。

 もし、もう少しキコリとの付き合いが浅ければ騙されてしまいそうな、そんな精度だ。


「凄い! 正確にはもっと広がってる範囲は広いんだけど、大体正解だ! そう、ボクはそれ故に何処にでも居るし何処にも居ない……ボク自身ですら、そこにいる『ボク』に接続するまでは居るって分からないんだよ。だからまあ、ボクみたいなのがいるわけだけども」


「キコリ」の姿がぼやけ、オルフェも知っているシャルシャーンの姿が現れる。


「ああ、色は変えておこうか」


 そう言うとシャルシャーンの髪と目の色が黒に変わっていき……それが変わり切ると、シャルシャーンはニッと笑う。


「この色だと、とある連中が好意的に話しかけてきてね? 中々面白いことにもなったりする」

「……まさか、アンタ」

「面白いよ。未来予測の転生者とかは、特に面白かった。ちょっと囁いただけで、クルクル踊ったからね!」


 まあ、君らが殺したけど、と笑うシャルシャーンが、オルフェには恐ろしくてたまらない。


「何がしたいのよ、アンタ。訳が分からないんだけど」

「何も? ただボクは……そうだな。ボクの中でも異端児でね。とりあえず……後輩と遊ぼうかな、と思って来たんだ」


 歪に笑うシャルシャーンの放った魔力波動に、オルフェの意識が遠くなる。

 また、あたしは。そんな思考すら途切れて、ブツンと意識を失った。

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