最高にドラゴンだな、お前は
その辺りの真実はともかく、やるべきことは決まっている。このレルヴァをキコリの防具に変える。
イメージは「生きている鎧」だ。レルヴァの意思をそのままに、防具に変える。
難しい話ではない。キコリはドラゴンとして何度も自分の鎧を作り出している。
だから、キコリはレルの中にゆっくりと自分の魔力を流していく。自分の思う通りにレルヴァを操作するために。
そして……同時に、レルの中からキコリに異質な魔力が流れ込んでくる。
「うっ⁉」
「お、おいキコリ⁉」
キコリの顔色が一気に悪くなったことに気付いたアイアースがキコリの肩を掴むが、キコリはそれに応える余裕がない。
(なんだ、これ……レルの……違う。まさかこれが、破壊神の魔力……!?)
気持ちが悪い。素直にキコリはそう思う。魔力のような見えない力に、こんな受け入れがたいものがあるとは思わなかった。魔力を通して身体を蝕まれそうな、そんなおぞましい魔力。けれど……同時になんだか懐かしくも思う。それは、キコリが破壊神であったという過去を裏付けるかのようで。
【壊せ】
そんな声が、頭の中に響いてくるかのようだった。いや、聞こえている。キコリにしか聞こえない【壊せ】という声が、キコリの中で響いている。
【壊せ】【全て壊せ】【人を呪え】【世界を呪え】【祈りに応え】【何もかもを破壊しろ】【そう望まれた通りに】【遍く人々の願いのままに】
「俺は……そんなことはしない」
レルの手を離さないままに、キコリは頭の中の声にそう返す。
確かにキコリも多くのものを破壊してきた。人として、人から少し外れたものとして、ドラゴンとして。破壊神の生まれ変わりなどと言われても納得できる程度には壊してきた。
しかし、そうだとしても。誰かを不幸にするために斧を握ったわけではない。
何より、キコリは。顔も知らない誰かとか、仲良くもない人とか。そんなものの為に戦ったことは1度もない。
正義がどうとか悪がどうとか、そんなものはどうでもいいのだ。
キコリが戦うのは、キコリが命をかけるのは、たった1つのシンプル過ぎる理由だ。
「俺は、皆のためになんて戦えない。俺は、自分と。自分の大切な人のためだけに戦ってるんだ」
見知らぬ誰かのためなんて。ましてや世界のためになんて戦えない。キコリはいつだって、自分の大切な誰かのために死にかけてきた。
「だから、黙れよ破壊神の残りカス。何が祈りだ、何が願いだ。そんな善行を俺に押し付けるな」
「……ハッ」
聞いていたアイアースは、ゆっくりとキコリから離れて見物の態勢に入る。
何をやっているのかは想像しか出来ないが、なんとなく予想は出来る。
その上で、アイアースは思う。それは、僅かな驚愕と感心だ。
「破壊神のやってることを善行ときたか。ま、破壊神の視点じゃそうなんだろうがよ」
普通はそんなものを善行などとは口が裂けても言わない。誰に言っても普通は理解されないだろう。だが、ドラゴンであれば理解できる。それは「破壊神の持つエゴ」とでも呼ぶべきものなのだろう。だからこそ、異なるエゴを持つキコリとは相容れない。
「最高にドラゴンだな、お前は」
それはアイアースなりの、心からの賛辞であった。
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