人生で1度も
アイアースがそんなことを考えているなどキコリは気付きもしないままに、レルを構成する破壊神の魔力を押さえつけていく。
どうせ自分の中に流れてこようとするのであれば、余計なことをしないように押さえつける。そうして、自分の支配下に完全に置けばいい。
いつも世界の魔力をチャージしているように、破壊神の魔力をそうしようというのだ。
それはキコリが思ったよりも、意外過ぎるほどに簡単で。
レルの姿が粒子に代わり、キコリを覆っていく。
それは鎧を覆い、地面に落ちていく兜を覆って……まるで意思を持ったかのようにキコリの頭へと装着される。
そうして現れたのは、キコリのドラゴンの鎧とも違う、レルヴァをイメージしたかのような鎧だった。
「これは……兜だけにするつもりだったのに」
「ハッ、元になったもんがあった分、広がったってところか? まあ、悪いもんでもねえだろ」
「そうかもしれないけどさ」
ちなみに斧までは変化していない。あくまで防具の範囲内、ということなのだろう。
兜のバイザーがカタカタと揺れているところを見るに、レルの意思もそのままのようだが……何となく嬉しそうだというのは伝わってきた。
「んじゃ、さっさと行くとするか。レルヴァのリーダーに会いに、な」
「ああ」
不思議なことに、それ以降の道程では1体のレルヴァにも会わず、キコリたちは城の前まで辿り着く。大きな堀に囲まれた城の橋はいつからそうだったのかは分からないが落ちており、歩いて渡るのは不可能であるように見えた。
「アイアース、どうにかならないか?」
「あ? どうやってだよ」
「水を操って、なんかこう……」
「出来るかボケェ。俺様を何だと思ってんだ」
城を叩き壊すことなら出来るだろうが、そんな器用なことはアイアースには出来ない。アイアースの力は、何処までも大雑把なのだ。
「あっちの世界でならどうにでもなるんだがな。こっちだと魔力が足りねえ」
「そうか。うーん……フェアリーローブを使えば俺1人なら飛べるかもだけど」
「お前1人で突っ込ませるのも不安だから却下だな」
「そうか……どうするかな」
キコリが悩むように「うーん」と唸ると兜のバイザーがカタカタと自己主張するかのように揺れる。
「なんだ? レル、何かあるのか?」
そうキコリが聞いた次の瞬間、キコリの鎧の背中からレルヴァのものにそっくりな翼が生えてくる。
「うわっ!?」
「おお、そういうことも出来るんだな。そいつで飛ぼうってわけだ」
アイアースは感心したように頷くが……キコリは固まったままだ。
まあ、それもそうだろう。何故ならば、キコリは。
「なあ……飛ぶのって、どうやるんだ?」
人生で1度も、空を飛んだことなど……ないのだ。
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