分の悪い賭け
まあ、仕方のないことだ。人間は翼など普通は生えないし、空を飛ぶ経験も、ましてや翼を羽ばたかせた経験もあるはずがない。
キコリは、高く跳べても飛べはしない。だからこそ、飛び方というものが分からなかったのだ。
そしてそれが理解できてしまったがゆえにアイアースは「あー……」とうめき声をあげる。
まさかそんなところで引っかかるとは思っていなかったからだが、どう教えたものか。アイアースは感覚で飛べたから、その辺が分からないのだ。
「あー……なんだ。俺様にそいつを聞くのは間違いだ」
「そうなのか?」
「おう。だからそのレルヴァに聞け。どうもさっきからこっちの言うことを理解してるフシがある」
そう、最初は通じているんだかいないんだか分からなかったのに、今はどう見ても此方の言葉を理解している。恐らくはキコリが鎧に変化させてからだろう。妙なつながりのようなものがキコリとの間に出来ているのかもしれなかった。翼が出たのも、恐らく意思疎通が出来ている証拠だろう。
そして、それを理解できたのだろう。キコリは「なるほどな」と頷いていた。
「レル。アイアースと一緒に飛びたいんだ。教えてくれるか?」
キコリがそう言えば、翼に魔力が流れ、僅かにキコリの身体が浮く。それは鳥の飛び方ではなく、ワイバーンやドラゴンなど魔力で飛ぶ生き物の飛び方で。
「お。こ、これは……」
キコリはその魔力の使い方を、レルのやり方を通して学習していく。今、キコリとレルは魔力で繋がっている……そのレルのやっていることはすなわち、キコリの経験にもなっていく。だからこそ、キコリは「空を飛ぶ」方法を理解し……同時にとんでもなく魔力を消費するものだと理解する。
「アイアース。これ魔力の消費が凄すぎる。行こう」
「お、おう」
アイアースを抱えたキコリはとにかくスピード重視で飛び、城壁にぶつかる寸前で飛行をやめてその場に落ちる。
「う、うおおおお!?」
「うわっ!」
そうして2人が転がり止まると、アイアースは勢いよく起き上がりキコリを立ち上がらせる。
「お前……お前なあ……雑なんだよ! めっちゃ雑! 俺様より雑な奴初めて見たぞ!」
「あー……ごめん。次はもっと上手く飛ぶ」
「ったく、お前って奴は……」
アイアースは大きく溜息をつきながらも、城を見上げる。今のところ、レルヴァが出てくる様子はない。ないが……その気配のようなものは感じていた。
(あー……いやがるな。うじゃうじゃいる気配がするぞ。さて、上手く話し合いできんのか……?)
出来なければ、たぶん死ぬ。なんとも分の悪い賭けに、アイアースは人知れず汗を流していた。
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