交渉する価値

 こちらの存在には気付いているはずだ。いるはずだが……襲ってこないのは、様子を見ているからだろうか? それが、アイアースには判別できない。

 できないが……どうであってもやるべきことは変わらない。此処でどうにか出来なければ、死ぬだけなのだから。

 頷きあうとキコリは斧を、アイアースは槍を構え閉まったままの城門へと向かっていく。それを押し開けようとして……当然のように開かない。中でかんぬきでもかかっているのだろう。それを無理矢理破壊するのは相当に面倒だった。


「……もう1回飛ぶか」

「今度はちっとは丁寧に飛べよ」

「努力はする」


 キコリは再び翼を出すとアイアースを抱えて飛び、そのまま地上に先程よりは少し丁寧に落下し転がっていく。まあ、多少……気持ち程度だ。体感的にはあまり変わらず、アイアースの額には僅かに青筋が浮かんでいた。


「お前……飛ぶ才能ねえな」

「まあ、なんとなく言われるかなとは思ってた」

「まあ、いい。壁のこっち側には来れたんだ。あとは……」


 アイアースが視線を向けた先に、次々とレルヴァが出現していく。5、10、20、30……100を超えた辺りで、キコリとアイアースは死を覚悟する。いるとは思っていたが、ここまでの数が出てくるというのは実際に見ると恐ろしいものだ。何しろ、今のキコリたちはドラゴンとしての力を振るえないのだから。

 だが……キコリはそこをあえて一歩踏み込む。


「俺はキコリ。破壊神の転生体だ。そっちのまとめ役に話をしに来た。出来ればそこを通してほしい」

「ギイイイ……」


 しかしレルヴァは、そのキコリの宣言に何も反応した様子はない。それでも襲ってこないのは……キコリがレルヴァの鎧を纏っているからだろうか? こちらの言葉は理解できずとも、自分たちと同じ気配を纏っているから敵と判断しきれていない。そんなところかもしれないとキコリは思う。

 だから、兜のバイザーを下ろすと……より一層レルヴァっぽくなり、レルヴァたちの視線がキコリへと一層強く突き刺さる。


「俺は敵じゃない。交渉に来たんだ。通してくれないか」


 キコリが再度、そう言うと。レルヴァの群れが2つに割れ、空いた空間に他よりも均整な……より人間に近い姿をしたレルヴァが現れる。


「お客様である、と。そう仰るわけですね」

「ああ。俺はキコリ、こっちはアイアースだ」

「これはご丁寧に。私たちはレルヴァです。個人名はありませんゆえ、ご容赦を」


 明確な思考と、明確すぎる言葉。ならば、このレルヴァがリーダーなのだろうか?

 そうでないとしても交渉する価値はある。キコリはそう気を引き締める。

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