それが本気であったとしても、羽のように軽く
「ところで先程我等がゼルベクトの転生体? だとかと仰っておられたようですが?」
「ああ。俺がそうだ。記憶はないが、生まれ変わったらしい」
「……ふむ」
レルヴァの表情は分からない。仮面をかぶったかのようなその顔からは、表情が読み取れないからだ。
だが……少しの無言の後にレルヴァは「此方へ」と城の入り口を指し示す。
「貴方が我等がゼルベクトであるならば、このような場所でお話しするものでもないでしょう」
言いながら先導するように歩いていくレルヴァを残し、他のレルヴァは何処かへ消えていく。定位置のようなものがあるのかは分からないが、此処に居る理由が無くなった……ということなのだろう。
城のホール、階段、廊下……歩いていく中で、白骨化した死体があちこちに転がっているのをキコリたちは見る。恐らくはこの城の兵士や使用人だったのだろう、もはやそういう置物であるかのようですらあった。
「気になりますか? その骨が」
「いや、思ったよりも何も感じない」
「左様ですか。片づける手間が減ってよかったです」
そう、思ったよりもキコリは何も感じなかった。此処に何か思い入れがあるわけでもなく、此処の人間に何か好感を抱いているわけでもなく。遥か昔の話の出来事なのだ。遺跡で骨を見つけたのと感覚的には然程変わりはしないということかもしれない。
「愚かでしたよ、この世界の人間は。そして神々も。あっという間に滅びた。もっとも、我等がゼルベクトも滅びましたが。それはただ、それだけのことです」
言いながら、レルヴァは一際大きな扉を開く。そこはどうやら……玉座の間であるようだった。
そこに落ちていた冠を拾い上げると、レルヴァはキコリへと振り返る。
「それで、我等がゼルベクトの生まれ変わりを名乗る貴方。確かに貴方からは我等がゼルベクトと同じ匂いがする。けれど、違う匂いもする。あるいはそれが生まれ変わりということなのかもしれません」
しかし、とレルヴァは言う。表情の存在しないその顔に、キコリは何か暗い感情を見た気がした。
それは、敵意へと凝縮されていき……レルヴァの爪が、一瞬で鋭い刃物のように伸びる。
「貴方は何か、ゼルベクトであってゼルベクトではない……そんな決定的な差があるような気がしてならない」
「それは」
「言葉は不要。どんな言葉も1秒後には変化する。それが本気であったとしても、羽のように軽く」
「……戦え、ってことか?」
「貴方はゼルベクトで、私はレルヴァ。ですから、屈服させてごらんなさい。かつて私が、ゼルベクトこそ至上と仰いだように。貴方も、そうさせてみればよろしい」
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