命なら、何度だって

 此処でどうこうと言葉を重ねることに意味はない。比較的察しの悪いキコリでも、それはよく理解できる。

 レルヴァは「言葉での説得は不可能だ」と、そうハッキリと言ったのだから。だから、キコリは黙って斧を構える。それを待っていたかのようにレルヴァは黒い魔力を刃のように放つ。

 一瞬の判断で転がりながら立ち上がったキコリを次の魔力の刃が襲い、前へと跳んだキコリをレルヴァの次の魔力の刃が撃ち落とす。


「ぐっ……!」

「その鎧、同族ですね。まあ、それだけの話ですが」


 それでも前へと進み振るわれたキコリの斧を、レルヴァはその腕で止める。魔力をしっかりと通しているというのに防がれたというのは……キコリが斧に通した魔力よりもレルヴァの魔力の方が強いというだけの単純な理屈だ。

 しかし、だからこそ。その単純な力負けにキコリは僅かな焦りを感じた。


「う、おおおおおおおおお!」


 斧を乱打する。ガキンガキンと響く斧と腕の衝突音は、キコリの斧が空しく弾かれている音だ。通じていない。ただの魔力の無駄になっている。それを感じたキコリは斧に魔力を通すのをやめようとして。


「なっ……!」


 斧が、粉々に砕けたのを見た。打ち合いで壊れたにしては、あまりにも儚すぎる壊れ方。明らかにそれ以外の要因で壊れている。その、理由は。


「貴方の魔力に耐えきれなかったようですね。まあ、詮無きことでしょう」

「……!」


 キコリはそんなものを経験したことは無い。斧にミョルニルを通しても壊れはしなかったが……考えてみれば武器は比較的短いスパンでマジックアイテムへと買い替えていた。そういう説明は聞いた覚えがないが、アレは斧自体にも魔力を流すのに適した処理がされていたのかもしれない。

 つまり、そうつまり。原因は。知識の不足と経験の不足。武器も防具も使い潰して当然のバーサーカーであったことの弱点が、ここにきて現れた。それも、こんなタイミングで。


「終わりです。くだらない結末ですがまあ、こんなものでしょう」


 レルヴァが、その腕を振るって。キコリは、その一撃を回避しながら砕けた斧を持っていた手を握る。


「終わる、かああああああ!」


 魔力を拳を覆うガントレット自体に流し込み、レルヴァを思いきり殴りつける。


「ぐっ……!?」


 武器だ。武器が要る。けれど、此処で武器は。新しい武器は。

 ある。可能性の話だが、不可能ではないはずだ。


「レル。お前を攻撃に使う。いいか?」


 兜のバイザーがカタカタと震え、了承の意思を伝えてくる。だから、キコリは鎧に魔力を流しイメージを伝えていく。そう、それは斧。キコリが使い慣れた、才能のないキコリでもそれなりに戦える武器。キコリの武器、キコリの爪、キコリの牙。


「……驚いた。防御を、捨てますか。その意味はご存じのはずですが?」

「命なら、何度だって賭金にしてきた。それに比べたら……大怪我だの『死ぬかも』なんてのは、随分軽いさ」


 キコリの手に、黒い斧が現れる。レルヴァをイメージした、黒い斧が。

 それを持つキコリの姿は……間違いなく、バーサーカーそのものであった。

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