身勝手の極みのような願い

 そのキコリを前に、レルヴァはその爪に輝くほどの魔力を通す。

 今までは本気ではなかった。そう言うかのような輝きに、キコリもまた斧へと魔力を通す。

 残り少ない魔力全てを込めた、文字通り後のない一撃のために。けれど、そんなものは慣れている。

 だからこそ、キコリは普段通りに斧を振るって。レルヴァは、それを迎撃するべく爪を振るう。

 そして、互いの攻撃は互いの命を奪う寸前でぴたりと止まる。

 互いの首筋に添えられた互いの武器は、しかしそれ以上は進まない。


「……理由を聞いても?」

「こっちの台詞だ。俺はお前に死なれると全部無駄になる」


 あまりにも明確な理由だ。キコリはレルヴァと交渉をしに来たのだ。なのに、その肝心の「交渉できる」レルヴァが死んでしまってはどうしようもない。


「フフ、なるほど。私の方はたいした理由ではありません。貴方の見極めが終了したので手を止めた。ただそれだけの話です」

「そうか。なら結果は?」

「貴方は私たちのゼルベクトではありません。ですが、確かにゼルベクトの生まれ変わりであるのでしょう」

「……? 意味が分からない」

「ゼルベクトは一柱ではないということです。しかしそうだとしても、貴方もまたゼルベクトなのでしょう。いや……生まれ変わり、でしたか?」

「ちょっと待ってくれ。一柱ではない? どういう意味だ? ゼルベクトは複数いるのか?」

「ふむ」


 レルヴァは先程からずっと黙っているアイアースを見ながら、なんとなく事情を悟る。


(あっちは驚いていない。となれば、神々の生き残りから多少なりとも事情を聞いたか……まあ、いい。このゼルベクトは面白そうだ)

「ならばゼルベクトの生まれ変わりよ。私と繋がるとよろしい。そうすれば、必要な知識を得られるでしょう」

「……ああ」


 確かに、そうできるならばそれが一番早いのかもしれない。キコリはそう考え、レルとそうしたように魔力を通していく。魔力の循環と同時に聞こえてくるのは、あの声だ。


【壊せ】【託された願いを】【叶えよ】


「断る。俺は、願いなんて知らない」


 その声を振り払って、キコリはレルヴァと繋がる。同時にレルヴァの知る『破壊神ゼルベクト』についての知識が流れ込んでくる。

 無数の世界と、無数の邪悪な願い。あまりにも身勝手な、けれど凄まじい数の祈りの中で生まれた、強大な破壊神。

 そんなものの生まれ変わりであるという事実は……キコリの自己評価を、また一段階引き下げた。

 元々地まで落ちていた自己評価は、これ以上は埋葬でもされるのかというレベルだが……まあ、仕方がないとも言える。

 自分が「自分以外の誰かが、それも自分に影響のない何処かで不幸になれ」といったような、そんな身勝手の極みのような願いから生まれた神の生まれ変わりだという事実を落ち込まずに受け入れられる者はそうはいないだろうから。

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