破壊神ゼルベクト

 選ばれた場所は、草原。此処には草木以外には何もなく、出てくるとしてもデモンだけだ。

 だからこそ、決着の場には相応しい。空間そのものが細かく分割されたダンジョン構造も、被害を広げないためには丁度良い。

 その場の中央に立ち……シャルシャーンが、何処かへと呼びかける。


「デスペリア。此処から出る手段を全て塞いでくれるかい?」

『いいでしょう。入るのはいいのですか?』

「それは奴が来てからだね。この籠にまずは奴を招き入れるんだ」


 そのシャルシャーンの言葉が終わった直後。転移門が全て消え去る。いや、正確には壁のようなものが出来た……という感じだろうか?


「さあ、これでボクたちの退路もなくなったわけだが……」

「今更だな」

「そうだね、ヴォルカニオン。正直今回は、君を参戦させられるかどうかが一番の懸念点だった」

「フン」


 爆炎のヴォルカニオン。現存するドラゴンの中では一番バランスの良いドラゴンだ。他のドラゴンが尖り過ぎというのもあるが……まあ、それは今更な話だ。そもそも論でいえばグラウザードさえマトモに育てば……など、色々とシャルシャーンとしても愚痴は出るのだから。


「来るぞ」


 ドンドリウスが空を見上げ、そう告げる。瞬間、空に大きなヒビが入る。ヒビの向こうに見えているのは、真っ黒な虚無。そうしてヒビは広がっていき……砕け散った先から、巨大な何かが落下してくる。


「出たか……! なんとも懐かしい姿だ!」


 それは6つの腕を持つ巨体。人のようで人ではない、明らかに「違う」と分かるその異形。ヴォルカニオンほどにも大きなその巨人……いや、巨神がやってきた空は元に戻っていき、巨神は静かに周囲を見回す。


「美しい世界だ。滅ぶ姿もさぞ美しいだろう」

「くだらねえ台詞を吐きやがってよ……ぶち殺すぞ!」


 アイアースが即座にドラゴンブレスを放ち、しかし異形はそれをアッサリと防ぎきる。いや、ドラゴンブレスを受けた箇所に僅かな傷が出来ている……だが、その程度だ。


「なんだあ!? ふざけた表皮してやがんな……!」

「アレが破壊神ゼルベクトだ。生半可な攻撃は全て弾かれるぞ」


 そんなアイアースとシャルシャーンを、ヴォルカニオンを、ドンドリウスを、ユグトレイルを……そして、キコリを巨神……ゼルベクトは見て。笑う。嗤う。


「世界の守護者か。我の到来を予測していた……か。面白い。面白い。妙なものもいるようだが、その困難を砕いてこそ我に託された望みは叶う」

 

 言いながらゼルベクトの周囲に無数の魔力球が形成されていく。それはオルフェのオリジナル魔法「フェアリーケイン」にも似たもので。


「精々抗うがいい、守護者たちよ。我は破壊神ゼルベクト。無数の世界の無数の願いを受け顕現せしものだ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る