小さな……けれど、固い約束

「シャルシャーン……?」

「ああ、そうさキコリ。日常は楽しんだかい?」


 そう、そこにいたのはシャルシャーンで。その背後でオルフェがシャルシャーンを睨んでいた。

 実際、シャルシャーンは知らせに来いと言われて律義に知らせに来たのだ。

 シャルシャーンへの個人的感情はさておくべきだと、そう考えているのだろう。

 だからキコリも、シャルシャーンに「それ」を確認する。


「……あとどのくらいで来るんだ?」

「数時間後。何かを言い残す時間くらいはあると思うけど?」」

「いや、言うべき人には全部言ってきたよ」

「そうかい。じゃあ行こうか」

「ああ」

 

 頷くキコリに、アイアースがチッと大きく舌打ちをしながら立ち上がる。そのままスタスタと歩くとシャルシャーンにチンピラのような蹴りを数度入れてキコリへと振り向く。


「おいキコリ」

「あ、ああ」

「さっさと全部終わらせて帰るぞ」


 言いながら、オルフェやドドへと視線を向ける。


「言うべきことは言ったかもしれねえが、やるべきことはたくさん残ってんだろうよ」


 そう、シャルシャーンは日常はこれで終わりだとでもいうかのような言い方をした。

 しかし、そうではない。その先も人生は続く。こんなものは、その中のイベントの1つでしかないのだ。


「此処からまだ長いぞ。俺様たちドラゴンの人生は、ビックリするほどにな」


 それは、アイアースなりの激励だ。それが分かるからこそ、キコリは小さく微笑む。やはりアイアースは良い友人だ。それを強く思ったのだ。

 だからこそ、キコリはアイアースに頷きオルフェの前に立つ。


「……何よ。アタシにもついてくるなとか言う気?」

「ああ、そう言う気だ」

「キコリ、アンタ……!」

「愛してる」


 その一言で、オルフェがピタッと停止し固まる。何を言っているのか、理解しようとしてしまったのだ。そしてすぐにその意味に気付き、顔をみるみるうちに真っ赤にしていく。


「あ、あのねえ! こんなときに!」

「こんなときだからだよ。俺は、オルフェのことが好きだから。これが愛なんだと思うから。だから、オルフェには万が一もあってほしくない」

「あのね……相手は破壊神よ? 安全な場所なんて」

「ないかもしれない。それでも、オルフェには少しでも安全でいてほしい。なあ、お願いだ。そうしてくれないか?」

「……ズルいわね」


 そう、ズルい。「お願い」なんて、ロクにしたこともないくせに。こんなときばかり、キコリはそんなことを言う。

 そして……「また」だ。いつだってキコリは誰かのために戦いに行く。

 今度は、オルフェがその「理由」だ。だからこそ、オルフェは大きくなって。キコリに、口付けをする。


「待ってるから。さっさと帰ってきなさいよ」

「ああ。行ってきます」

「うん、いってらっしゃい」


 交わしたのは、そんな小さな……けれど、固い約束だった。

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