そのときがきた

 準備はそうして着々と進んでいく。ドンドリウス特製の城壁もそうだ。フレインの町を守る頑丈な城壁は大型ディノの突撃を受けてもビクともしない強度を誇っている。

 勿論、これらはゼルベクトの攻撃を防ぐためのものではない。此処は戦場にならないことは決まっている。

 何人ものドラゴンを迎えたフレインの町は、かなり普通に戻ってきてはいるが……それでも時折、町を覗き込んでくるドラゴンの視線にビクッとしたりする。

 けれど「そういうの」を含めて日常になりつつあった。フレインの町の住人であるモンスターたちは、ドラゴンがいるという生活を受け入れ始めていたのだ。

 そしてそれは、キコリがドラゴンであるという話が真実であるというのが伝わったのも大きい。

 キコリが「ああ」なのだから、ドラゴンとは話の通じない相手ではない。まあ、そんな風に思われたのであり……キコリの人格が評価された結果と言える。

 ついでにアイアースもドラゴンだと発表されたので「噂と違うな」という感じだ。まあ、この辺りはキコリと一緒にいた結果とも言えるだろう。

 実際にはシャルシャーン含め性格破綻者の群れなのだが、そこはバレなければいい話だ。


「よう、キコリ! 今日も大変そうだな」

「いや、たいしたことはないよ。ディノも倒せる人増えてきたしな」

「そうかもな。最初はどうなるもんかと思ったが」


 パン屋のオウガに声をかけられ、キコリはそう返す。実際、ディノという全く新しい敵相手に最初は戸惑う者も多かったが……元々フレインの町の住人は話にならないタイプのモンスターや、デモンが現れてからはデモンを倒してきた猛者たちだ。

 ディノ相手でも能力と攻撃パターンが割れれば充分に対処可能であり、大型ディノを倒してくる者も増えていた。

 人類側の戦況は分からないが、たぶん似たようなものだろう。どんな状況にも適応してきて人類の「今」がある。そこは……信じるしかない。


「まあ、全部どうにかなるさ」

「そうだな。どうにかなる。今までだってそうしてきたんだからな」


 笑うオウガにキコリも頷き、そうして家路を急ぐ。

 戻ってきた日常。あと何日あるか分からない、この日々が大切だから大事にしたい。

 いや……「戻ってきた」というには、多少違う関係性の変化もあった。

 それを含めて、キコリはこの日々が愛おしい。きっと、キコリが欲しかったのはこんな……こんな日々なのだ。


「ただいま」

「おかえり」


 家の中で待っていてその言葉を放ったのはオルフェ……ではなく。


「そのときが来た。始めよう……世界を守るんだ」

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