共存するための仕組み

 だから、だろうか? その夜ベッドに入ってもキコリは眠れず、軽く着替えて外に出た。

 

「……結構冷えるな」


 この時間はアンデッド系モンスターが元気な時間だ。空に浮かぶゴーストたちは心なしかはしゃいでいるように見えて、そのせいか魔力を放出し空と地面を照らす程に輝くのだ。

 だからだろう、フレインの街には人間の都市にあったような照明器具は外には設置されていない。

 そんなものなくても明るいのだから必要ない……というのはキコリも納得するしかない、そんな明るさだ。

 ゴーストの放つ魔力は冷たい……というが、これだけゴーストが集まって魔力を放出すればその冷たさも体感するレベルになる。つまり明るくて冷える、それがフレインの街の夜といえるのだが。


(夜に誰かの家に入るなっていうのは、その寒さが害になるからだ。本当にこの街はよく出来てる)


 そう、ゴーストの放つ寒さが家の中に溢れれば、健康被害が間違いなく発生する。場合によっては命に関わる場合もあるだろう……そうしたものを防ぐ意味合いがあるのだと、今のキコリは理解している。

 そんな様々な……無数のモンスターが互いを害せずに生きていけるための、共存するための仕組みがフレインの街には無数に存在する。

 見た目が人間なキコリが此処で違和感なく住めているのも、その仕組みによるところが大きい。

 誰も彼もが、此処では当たり前に幸せを享受できる。

 だからこそ「軍」とかいうものを作ろうとしている奴がキコリには理解できないのだ。


(此処に従属するわけでもなく、引き抜こうとしてるんだ。なんでだ? フレインの街の仲間に加わって幸せに生きて、何かあれば協力して対処する。それじゃダメなのか?)

「……そんなに戦いたいのか? それとも、自分が一番じゃなきゃ納得できないのか?」

「何の話?」

 

 ひょいっと横に現れたオルフェにキコリは「うわっ」と声をあげる。


「なによ。文句あんの?」

「いや、ないけど……ごめん。起こしちゃったみたいだな」

「くだらないこと気にしてんじゃないわよ」


 言いながらオルフェはキコリを軽く突く。


「アンタ、今日ずっと悩んでるような顔してたでしょ。分からないと思ってんの?」

「……オルフェには隠し事出来ないな」

「キコリのくせに隠し事しようってのが生意気なのよ」


 オルフェの言いようにキコリは思わず苦笑するが……そんなキコリの頭にオルフェは座る。


「軍とかいう連中でしょ。噂になってるわよね」

「ああ、今日聞いたんだ」

「何処の馬鹿か知らないけど、けったいなもの作ろうとするわよね」


 そう、フレインの街に住んでいればそんなものを別に作る必要など感じない。

 だからこそ噂になる。だからこそマトモに考える頭があれば乗らないのだ。


「軍を作ろうとしてる奴が、何を考えてるか理解できないんだ。俺は……それがどうしようもなく、怖い」

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