とても、綺麗な光景
「そんなもん考えたってどうしようもないでしょ」
キコリの言葉を、オルフェはそんな一言でぶった切る。
「いや、そうなんだけどさ……それ言ったら終わりだろ……」
「終わりよ。アンタが考えたってどうしようもないでしょ。何? それとも軍とかって連中を皆殺しにでもしに行く?」
「いや、そんな過激な……」
「言っとくけどね、キコリ。アンタ頭悪いくせに思いつめるのやめなさいよ」
「確かに頭は悪いけどさ」
「世の中には個人でどうにかしていい話と、個人でどうにかしちゃいけない話があるのよ。これは後者よ」
そう、キコリにアイアース。このドラゴン2人がいれば、大抵のものは真正面から叩き潰せる。
しかし「そうしていいか」といえば話は別だ。モンスター同士の争いにドラゴンが出張る。この意味を拡大解釈する者は必ず現れる。その末路は、大抵ロクなものではない。
「これは自己犠牲とも別の話よ。暴君の武器になりたくないなら、自分から関わるのはやめときなさい」
「そんなつもりはないけどさ……」
「ならいいじゃない。世の中色々あるけど、アンタが解決しなきゃいけないわけでもないでしょ」
「まあな」
「シャルシャーンにやらせときなさいよ。アイツの仕事よ、アイツの」
「そういえば最近出てこないな。この会話も聞いてると思うんだが」
「都合悪いから出てこないんじゃないの?」
そんな会話をしていると、キコリの思考も随分とスッキリしてくる。まあ、確かにキコリが出張る話でもない。そういうのは、あの町長とかがどうにか対応を考える話であるだろうから。
「……オルフェ、ありがとう」
「何よ突然」
「いや。俺は気付かないうちに調子に乗ってたんじゃないかってな。俺がどうにかしなきゃ、とか……そんな風にさ」
「……そうかもしれないわね」
調子に乗る。そんなものが出来るなら、キコリはもう少し器用に生きていただろうとオルフェは思う。
キコリの人生目標など「幸せに生きたいな」程度の、誰でも普通に叶えられる程度のものだったはずなのだ。それが何処までいっても叶わなかったからこそ、今こんな場所にいる。
キコリ自身は喜んでいるようだが、こんな最果てでようやく幸せを得られるというのは、あまりにも間違っていないだろうか?
誰かのためにと斧を振り続け、人間をやめて。少しずつ擦り切れていきながら、今ようやく此処に居る。ならば、せめて。
(せめて、新しい面倒ごとなんて関わらなくてもいいでしょ。そんなもんは何処かの誰かが苦労すればいいのよ)
「オルフェ?」
黙り込んだオルフェを心配したようにキコリが声をかけてきて。オルフェは誤魔化すように「空が綺麗ね」と返す。それで単純なキコリは誤魔化されたのだろう。空を見上げてふわりと微笑む。
「……そうだな。とても、綺麗だ」
ゴーストの乱れ飛ぶ空と、その先の星空。それは確かに……とても、綺麗な光景だった。
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