ようやく理解できた
「ガアアアアアアア!」
その一撃が叩き込まれるより直前、ドンドリウスの表面が爆発し砕けながらキコリを吹っ飛ばす。
「ぐっ……!?」
キコリのブレイクはその爆発したドンドリウスの欠片を粉々に砕き、他の欠片に吹っ飛ばされながらキコリは墜落していく。
事実上のブレイクの無効化。まさか自分の表面を吹っ飛ばすなどという方法でそれが為されるなど正しくキコリの想像外であるが、読みあいで負けたことに変わりはない。
「こ、の……!」
だが、このまま素直に落下するつもりはキコリにはない。手近に飛んできた岩を掴もうと触れると、狙ったように岩が爆発する。その爆発はそのまま他の岩を巻き込み連鎖爆発を起こし、巨大爆発へと成長していく。
「まさか同じ魔法が二度通じると思ったのか? ならば愚かだ。対して私の手札はまだ無数にあるぞ? まあ、それを披露する機会もなさそうだが……」
「元々手札なんか多くないんだよ、俺は」
「何!?」
自分の上空で斧を振りかぶっているキコリに、ドンドリウスは驚愕する。
何故そうなったのかドンドリウスには分からないだろう。
しかし離れた場所にいたオルフェには見えていたし分かっていた。
キコリが使ったのは魔法ではない。以前妖精村で得た能力……身体が軽くなり、ジャンプなどが非常に楽になる「フェアリーマント」。
爆発の中、まだ連鎖爆発する寸前の岩を蹴り跳んだのだ。
そう、キコリは飛べない。それは変わらない。しかしキコリは跳べるのだ。
それを知らない者が想像するよりも高く、高く跳べる。飛べずとも、跳べるのだ。
「だが結果は変わらん!」
そう、姿が見えているのならばドンドリウスはキコリを再度撃ち落とせる。
今度こそ、避けられない空中でドラゴンブレスを放ち殺し切る。
回復の時間も、逆転のチャンスも与えない。ドラゴンブレスとは、そういう技であるが故に。
そして。キコリもまた世界から魔力をチャージする。一切の遠慮なく、キコリという器が壊れる程に徹底的に。
「いいや、変えるさ」
魔力が満ちる。溢れる。流れ出る。
キコリに許された器を超える魔力が、キコリを壊しながら流れ出る。
だが、そんなことを気にしている余裕はない。
この魔力を全て、一撃に叩き込まなければいけない。
ドンドリウスを……自分では無茶をやっても勝てないドラゴンを完膚無きまでに消し去る一撃を。
この戦いに、完全に決着をつける一撃を。
キコリは壊れながら1つのイメージを形作っていく。
あのドンドリウスを破壊する、そのイメージを。
今から放つのは「ブレイク」でありながら「ブレイク」ではない。
ブレイクの枠に収まる魔力を超えてしまった。
だからこそ、あの時新しい名前をつけた。そう、これはソイルレギオンを倒した時の……それを更に超える出力を持つ一撃。
溢れ出る破壊の魔力を、制御して。制御しきれずに、新たな形に収めて。
キコリの斧から、輝く巨大な刃が出現する。その輝く光の巨斧を、構える。
「ギガントブレイカー」
放たれたドラゴンブレスを切り裂いて。ドンドリウスは、自分のドラゴンブレスが切り裂かれるのを見た。
「……なんという傲慢な魔法だ」
ドンドリウスはその輝きを見ながらそうひとりごちる。
これは避けられない。防げない。もうそんな時間はないし、これを防ぐ手段はない。
ドンドリウスの巨体が光の巨斧が触れる場所から、分解されていく。
自身の存在が、ギガントブレイカーに籠めた魔力とぶつかり合い無理矢理上書きされ破壊されていく。
「だが、なるほど。これを受けてみてようやく理解できたぞ」
ドンドリウスはその巨体が消えていくのを感じながら、確信する。
そう、それはドンドリウスがキコリに対して抱いていた疑問。
「君はやはりゼルベクトだ。しかし……転生体なのだな。その意味を、ようやく理解できた」
切断されたドンドリウスの身体が崩れ落ち、そのまま砂より細かい何かに変わって消えていく。
そして同時に……キコリの身体も力を失うように自由落下していった。
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