生活の始まり

「ありがとう。人はいっぱい居るように見えるけど、そんなに足りないのか?」

「ああ、足らんね。デモンとかいう俺等のニセモノは、どんどん増えやがる。全滅させる方法は分からんにしても、殺し続けなけりゃならねえ……でなきゃ、最悪の事態になる」

「……だな」


 確かに、オーガの受付の言う通りではある。デモンは大地の記憶から生み出される敵であって、全滅することは恐らくない。

 そしてデモンが自然に消滅するようなものなのかどうかも分からない。もし消えずに増え続けるというのなら、いつか増えすぎたデモンは別の場所へと移動を開始するだろう。

 全ての生物に敵対的なデモンの大移動の示すものはただ1つ。

 モンスターを含む全ての生命体の死。モンスターがデモンのように簡単には増えない以上、いつかデモンはデモンモンスターではなくモンスターと呼ばれるようになるだろう。

 そうなれば始まるのは、残された生命体と新たなる「モンスター」たちの終わりなき争いだ。


「此処の偉い人は、この事態をどう考えてるんだ?」

「オレに分かるはずもないだろう。まあ、仕事としてこうやって討伐依頼を出してるんだ。放置していいとは思ってないだろうよ」

「1度話を聞いてみたいな」


 キコリとしてはとても自然に話題を出したつもりだが、その言葉にオーガの受付はハッと笑う。


「無理だろ。誰も会ったことがねえんだ」

「そうなのか? 何かの機会に見かけたりしそうなもんだが」

「知らんよ。此処に来るのは執事だけだ」

「ふーん。ならその人の話を聞くのが一番いいってことか」

「そうなるな。ま、お前がこの調子ならいずれ声がかかるだろうよ」

「ああ、頑張ってみるさ」


 そう言って、軽く手を振って。オルフェたちと紹介所を離れながらキコリは呟く。


「ある程度の評価は得た。でもまあ、道は遠そうだな」

「めんどくせぇな。もういいんじゃねえか? 町長だかなんだか知らねえが、きっと大した奴じゃねえよ」

「飽きっぽいな」

「めんどくせえの嫌いなんだよ」


 愚痴るアイアースをなだめながら、キコリは「でも」と言うオルフェに意識を向ける。


「アイアースの言うことも分かるわよ。これ、執事と会うだけでも結構な長丁場になりそうよ。いいの?」

「まあ、な」


 いきなり大きな実績をあげることで、恐らく人間でいう金級にいきなり上がった。

 しかし、ただそれだけだ。地道に大きな実績を積み重ねていくことでようやくたどり着くのが「執事」で、そこから先は予想もつかない。

 流石に何年も時間をかけていこうとはキコリも思わない。となると、何処かで区切ることも必要ではあるが……。


「ドドはどう思う?」

「そうだな。ドドたちはまだ流れ者で信用はない。ある程度馴染むのは重要だろう。それに……」

「それに?」

「そうすることで見えてくるものもある、とドドは思う」


 見えてくるもの。なるほど、外様の視点では見えないものもあるだろう。

 キコリは「よし」と頷くと、今後の方針を決める。


「まずは『執事』に会えるよう頑張ろう。ひとまず数か月。それでダメなら諦める。それでいいか?」

「……仕方ねえな。付き合ってやらぁ」


 一番説得の難しそうなアイアースが頷いたことで、キコリたちの方針は決まる。

 それはこのフレインの町での生活の始まりでもあった。

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