次からは直接来てくれ

「何って……手が回らないんだろうな。シャルシャーン、俺の特訓にも付き合ってくれたし」

「ハッ、アイツがか? まあ、俺様含め好き勝手してる奴ばかりだ。手が足りない時に使う気ではあるんだろうが……正直、あの野郎が手が足りないなんて状況は想像つかねえな」


 まあ、確かにそれはキコリとしても同意だ。少し前にシャルシャーンの欠片と戦って勝利こそしたが、あれ自体はシャルシャーンのほんの一部でしかない。本気のシャルシャーンと戦えば、キコリなど簡単に潰されていたはずだ。そんなシャルシャーンの手が足りなくなる状況など、キコリにも想像出来はしない。しないが……シャルシャーンが今のような状態になる「何か」があった以上は、そういった事態も起こり得るのだろう。


「それがゼルベクト、だったりしてな」

「ああ? あの人間の日記か? お前もよくあんなもん覚えてんな」

「なんか忘れちゃいけない気がしたんだよ」

「ほー?」


 それがどうしてかは分からない。けれど、たかが単語1つ。覚えておくのはどうということもない。その単語から、妙に不吉な予感がするのも忘れまいとする心を強くする一因であるかもしれないが。


「よし、では帰ろう」

「だな」


 デモンホーンスタンプの牙を持ち上げようとするドドを手伝い、キコリは2人で牙を担ぐ。

 オルフェは元々手伝うのは無理だが、アイアースも手伝う様子は微塵もない。

 そうして持って帰る最中、牙の大きさにギョッとしているモンスターたちの姿があるのは当然として、フレインの町の衛兵も牙を見てポカンとクチバシを開けていた。


「こ、れは……また大きいのを狩ったみたいだな」

「ああ。とはいえ仕事だからな」

「まあ、そうなんだろうが……よし、通っていい」


 一体何がおかしいのか分からないまま、キコリたちは町中を紹介所に向かって歩く。


「すげえな……」

「なんだあの角……いや、牙か?」

「デモンホーンスタンプのか? アイツ等強えんだな」


 色々な種族のモンスターがキコリたちに感嘆の声をあげているが、分かりやすい大物を狩ったのがやはり良かったということなのだろう。

 討伐用の報告小屋に持っていくと、担当のオーガがドタバタと小屋から出てきて牙を確かめ始める。


「……確かにこれはデモンホーンスタンプの牙だ。魔力が一致する」

「一致するって……そういうのが分かるのか?」

「ああ。アレが出たのは1度じゃないからな。しかし、ううむ。初仕事でデモンホーンスタンプをか……」


 感心したように何度も頷くオーガは小屋に戻ると、金袋と一緒に金色のペンダントを1つ投げてくる。


「リーダーが着けとけ。で、次からは直接来てくれ。使える奴を放っとくほど暇じゃないんだ」

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