全体を見なきゃいけない連中

 如何に巨体でも、急所の位置は変わりはしない。

 ぐらりと音をたてて崩れ落ちるデモンホーンスタンプの巨体がそのまま消えていき、宙に放り出されたキコリとアイアース……のうち、キコリだけをオルフェが回収し、アイアースは地面に叩きつけられる寸前にふわりと浮く。


「ありがとう、オルフェ」

「薄情な奴だなテメー」

「アンタは自分で浮けるでしょ」

「まあな」

 

 そんな掛け合いをする中、地面にゴトンと音をたてて巨大なデモンホーンスタンプの牙が落ちる。

 湾曲した巨大な角のようにも見えるソレは、デモンを倒した時に得られる「ドロップ」と呼ばれるものだ。

 これもまた大地の記憶の1つらしいのだが……キコリにはよく分からない。


「ドロップ、か。おかしな現象だよな」

「大地の記憶の暴走だ。マトモなもんであるものかよ」

「だとしても、いつかコレが普通になる。いや、もう普通になりつつあるんだと思う。モンスターですらそうなら……人間は、きっと」


 何処からか現れる敵対的なデモンモンスター。倒せば手に入るドロップ品。

 それが普通になった時、人間とデモンではないモンスターの関係はどうなるのだろう?

 きっと、良いものではない。良くなるはずがない。

 いや、むしろ悪化するだろう。人間とモンスター。今ですら敵対しているというのに、互いの掃滅戦に発展するのではないだろうか?

 防衛都市が攻撃のための都市に変化していく可能性だって、充分にあるはずだ。


「ちょっと、キコリ」


 だが、思考の海に沈もうとするキコリをオルフェの言葉が押し留める。


「何を考えてるか知らないけど、ソレはアンタがどうにかできることじゃないでしょ」

「あー、いや。まあ……な?」

「悲観的になるのもいいけど、いや、よくないけど。アンタはアンタっていう個人でしかないのよ。そういうのは全体を見なきゃいけない連中に任せときなさい」

「……だな」


 ドラゴンであろうと、キコリはキコリという個人でしかない。それは確かにその通りだ。

 何もキコリが世界の守護者たらんとする必要など、何処にもないのだ。


「全体を見なきゃいけない連中、ねえ……」

「何よ」


 含みのあることを言うアイアースをオルフェが睨めば、アイアースはククッと笑う。


「たいしたこっちゃねえよ。ただ、そういう役目はかつてシャルシャーンの野郎が担ってた……って話を思い出してな」

「シャルシャーンが?」

「ああ。その頃のドラゴンはシャルシャーンがいれば足りていた。だが、今は違う。俺様みてえのもいるし、お前みたいなのも出た。これは何を意味するんだろうな?」

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