新しく何かが始まるならば

 そして、あっというまに1か月が経過した。

 大型のデモンモンスターを中心に狩るキコリたちの稼ぎは大きく、宿の部屋を長期で借りても全く問題ないほどであった。

 だからだろうか、人型生物用宿屋『ダンスフロア』の主人もいつもニコニコで、気付けばパンにジャムがつくようになっていた。

 それだけではない。ドドも鍛冶屋のオークに誘われて、暇があれば新しい武具の作成に向かうようになっていた。

 キコリたちは、このフレインの町に慣れ始めていた。そしてそれは、フレインの町の住人も同じであった。

 元々見た目がモンスターであるドドやオルフェはともかく、見た目的には人間に近い……けれどドラゴンを名乗るキコリとアイアースの2人を受け入れ、今では完全に仲間として扱っている。

 元から気にしてはいなかったが、もう完全に「そういうもの」と思っているのだ。

 だからこそ、すでに向こうから話しかけるようになってきている。


「よう、キコリ! 今日も大物狩ったみたいじゃねえか!」

「ああ。というか、噂になるのが早くないか?」

「ハハハ! 人気者は辛ぇな! で、どうだ? その稼ぎで妖精のお嬢ちゃんにコムベリーでも買って帰るってのはよ!」

「じゃあまあ、一掬い頼むよ」

「毎度!」


 果物屋のトロールとそんな話をするのも慣れてきたキコリだが、想定通りにこのフレインの町で名前は売れてきている。

 扱い的には「最近来た凄い新人」といった感じだが……陰口を叩かれることもなく凄いものを凄いと言う……まあ、何かよからぬ企みをしようとしたらしいゴブリンとコボルトが何処かの軒先にブランと吊られていたらしいが、いつものことらしいのでさておいて。基本的には、非常に気が良い者の集まりだ。


「暮らしやすいんだよな……懐が深いっていうか」


 言いながら、キコリはたまに混ざっている人間の冒険者たちを見る。彼等はフレインの町に適応した者もいれば、物資を整える場所と割り切って稼ぎ、一通り揃えば何処かに消えていく者もいる。新しく来る者は今のところ居ないので、総数は減っていると考えていいのだろうが、それもまた淘汰の1つの形なのだろう。

 しかし、1つ気になることとしては新しいモンスターの流入も今のところない……ということだ。

 周囲にモンスターの暮らす場所がなく、全てがデモンモンスターに制圧された場所だからそう感じるのかもしれない。

 いずれアンデッドモンスターだけになるかもしれない、とはお馴染みになったスケルトンギャグだが、確かに長期的に見ればそうなる可能性もあるのだろう。


(とはいえ、そうなったのはつい最近の変化のせいだ。此処の町長なら、現状について正しく把握できてるはず。なら、次に打つ手は……)


 更なる調査か、それとも別の何かか。何であるかは分からないが、新しく何かが始まるならばそろそろだろう。キコリはそう確信していた。

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