悪魔

 結果から言うと、そのキコリの予想は正しかった。翌週の紹介所には特設の掲示板が設置されており、周辺地域を細かく分類した上での調査依頼がびっしりと貼ってあった。

 オークやオーガといった力自慢、バードマンやその他空を飛べるモンスターなどが受けるか真剣に悩んでいたようだったが、そんな彼等が食い入るように見ている掲示板から離れた場所で、キコリたちは話し合っていた。


「やっぱり広域調査依頼が出たな」

「つーかよ。そんなもんやってどうすんだ」

「いや、説明したぞ」

「覚えてねえ」


 本気の顔で言うアイアースだが、元々興味が無ければすぐ忘れるのがアイアースだと、キコリも分かっている。だからこそ、嫌な顔一つすることなく説明する。


「此処を……フレインの町を中心に、纏めていくつもりなんだろうと思う」

「何を?」

「モンスターをだ。デモンという敵を相手にする為の枠組みを作ろうとしてるんだ」


 それはフレインの町だけではどうしようもないものだ。

 恐らく現状のモンスターの生存域を把握し、フレインの町に収容することで広げていくか、あるいは別の場所にフレインの町同様のものを作る。そうすることで、いつ何処で何が起こってもどうにかなる仕組みを作りモンスターの生存に繋げていく。そういう目論見だろうとキコリは考えていた。


「つまりモンスターによる国造りだ。人間に出来てモンスターに出来ない理屈はない」

「考えても普通はやろうとしないけどね。でもこの町を見る限りでは、その為のノウハウは出来てるわ」

「ゴブリンを統制できるだけでも凄いとドドは思う」

「ほーん……国ねえ」


 アイアースはやはりあまり興味は無さそうだが、前回話した時よりはマシにも見える。


「人間か悪魔みてえな発想だな。俺様の知る限りじゃ、国なんぞ作ろうと考えるのはその2つだけだ」


 ゴブリンやコボルド、妖精など……他のモンスターも結果的に国のようなものを作ることはある。

 しかしゴブリンの場合は結果的にそれっぽいものが出来ていたというようなものだし、妖精は妖精女王という存在が「先」にある。

 しかし国を作ろうという考えを先に持つのは、アイアースの知る限りでは人間か悪魔しかいない。


「だとすると……」

 

 キコリの呟きに、アイアースはククッと楽しげに笑う。


「こりゃあ、町長とやらの正体も見えてきたかもしれねえなあ?」

「悪魔……か」

「可能性の話ではあるけどなあ?」


 しかし、その可能性はどうやら高そうだった。何故ならば。


「お初にお目にかかります。私はこのフレインの町にて執事を務めておりますアウルでございます。本日は皆様にお願いがございまして参上致しました」


 その場に揺らめくようにして現れた、全身真っ黒の男が……まさしく、悪魔であったからだ。

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