悪魔の言語
「執事……」
「執事だ。久々に見たな……」
ザワつく声が、この男が本物の「執事」であることをキコリたちに教えてくれる。
金の髪に赤い目。あの時、悪魔の地下都市の水晶玉で見た悪魔王レーゲインをどことなく思わせる雰囲気を持つ男だ。
「お願い、とは?」
「主が、皆様をご招待しておいでです。御足労頂ければと」
「ええ、勿論です。今すぐですか?」
主。つまり町長がキコリたちを呼んでいるということだろう。勿論、それが目的だったのだから断る理由は一切ない。
だからキコリは即座にそう答えて。しかし執事アウルは、虚を突かれたかのような表情になる。
そのつもりで迎えに来たのだろうに、すぐに返事をしたのが意外なのだろうか?
そんなキコリたちの疑問が透けて見えたのか、執事アウルは誤魔化すように軽く咳払いをする。
「失礼致しました。すぐに来ていただけるとは思いませんでして」
「直接迎えに来たんです。そのくらいは察せます」
「……これは重ね重ね失礼を。では、ご案内いたします」
そうして先導する執事アウルについていけば、周囲からは「あいつら、すげえなあ……」という感嘆の声が漏れ聞こえてくる。
この1か月ほどの間ですっかり名前が売れたため「何故」などという声は出てこない。
純粋と言えばそうなのかもしれないが、キコリとしては非常に好感度が高い。
町長の屋敷は紹介所からは然程離れていない場所にあり、もっといえば屋敷から紹介所を見渡せる距離と位置にある。
案内されて歩いていけば、バードマンの衛兵と何度もすれ違う。かなり警備が厳重ということなのだろうが、執事アウルに先導されているキコリたちは止められることもない。
「……バードマンが珍しいですか?」
「いえ。何処を見ても警備は『そう』なので、何か意図があるのかと思いまして」
「その通りです。バードマンは種族的に知能が高く機転もきき、機動性に関しては語るまでもありません。戦力ではなく治安維持を目的とした場合、これほど向いている種族はそうはいません」
なるほど、確かに人型で器用、頭が良くて機転が聞けば報連相を忘れず、なおかつ空も陸も行けるから地形にもあまり左右されない。理想的な衛兵であるだろうとキコリも思う。
「さあ、此方です」
辿り着いた屋敷の扉に向かって執事アウルが何か理解できない呪文のようなものを唱えると、正面の大きな扉が開いていく。
「悪魔の言語『圧縮構文』……そんなもんで鍵かけてるのね」
「おや、流石は妖精……いえ、妖精女王閣下。こんなマイナーなものをご存じとは」
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