でも売れないんですよね
「これは、凄いな……」
冒険者ギルドの地下室は、まるで武器防具の博覧会のような有様だった。
いや、博覧会というにはちょっと雑然としているだろうか。
カウンターに職員がいなければ、倉庫だと言われても納得してしまうだろう。
「いらっしゃい。お金はお持ちです?」
「6000イエンくらいなら」
路銀の残りも含めて出せる最大額を答えると、職員は頷いてみせる。
「まあ、その額なら高いのじゃなければ大丈夫ですね、ゆっくり見てってください」
「……万引きでもあったんですか?」
「出来るもんならやってみろって感じですけどね」
カウンターに置いてある槍に触れる職員に、キコリは思わず両手を上げそうになる。
とにかく、セキュリティはしっかりしているらしい。
「これは……兜か」
いわゆるバケツヘルムだが、3000イエンの値札がついている。
安くはないが、高くもない。
「あの……この兜、触ってみても?」
「いいですよー。それ、中古品ですし」
触れてみると、それなりに重い。
試しに被ってみると……ちょっと大きすぎる。
キコリには使えそうにない。
兜を置いて、他の商品を見ていく。
剣、盾、鎧……素材や形の差も含めると、本当に色々なものがある。
しかし、その中でキコリが必要なものがどれかというと、中々難しいものがある。
武器は斧があるが、モンスターを解体するときにナイフがあればもっと手間は省けるだろう。
しかし、今すぐに必要かといえばそうではない。
ならば防具は?
鎧はどうだろう。たとえばチェインメイルを着れば、怪我をする確率が相当に減るはずだ。
レザーアーマーでもいい。着ると着ないでは相当に違う。
「……こっちは盾、か」
盾も様々な種類がある。ラウンドシールドにカイトシールド、大きさに材質も様々だ。
総金属製の盾は、やはり相応に高い。鍋の蓋くらいの大きさの丸盾であれば4000イエンで出ているが、あの大きさでは「防ぐ」能力にちょっと不安がありそうだ。
「その盾は逸らすやつですねー。結構技を要求されますよ」
「あ、そうなんですね」
「ええ。逸らして相手の懐に入る為のものですね。言ってみれば攻撃の為の盾です」
……意外と合っている気もする。
しかし防具という点ではどうだろうか?
「シールドバッシュ向きでもありますね。取り回しが簡単ですから」
「……ひょっとして、勧めてます?」
「中々売れないんですよね、それ。矢を防ぐのも難しいから」
「それは……防具としてどうなんですか?」
「だから盾としての用途の問題なんですってば」
「でも売れないんですよね?」
「売れませんけど」
「安くなったりは」
「しません」
絶対に値引きなんかしない。そんな強い意思を感じる声であった。
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