この建物、地下もありまして
夕方前の冒険者ギルド。
近場に出ていた冒険者が戻り成果を金に換え始める頃合いに、受付嬢は「それ」を見た。
一瞬、瀕死かと思う程のボロボロ具合。
多少よろけてはいるが、しっかりとした足取り。
それが今朝送り出したキコリであることに受付嬢は驚き、しかし僅かに笑みを浮かべる。
自分の元へと歩いてきたキコリがカウンターに置いたソレを見て、笑みは更に強くなる。
「魔石が3つ。ゴブリンを倒してきたんですね」
「強かったです。殺されても、全くおかしくなかった」
「殺し合いって言うのは、そういうものです」
それにしても、と受付嬢は言う。
「普通、初心者はゴブリン1体倒したら誇らしげに魔石を持ってくるんですが。3体も?」
「それが俺の……今の限界です」
「ふふっ。多さを褒めたのに、少なさを恥じるんですね。好きですよ、そういうの」
実際、ゴブリンの魔石3つ程度は稼ぎとしては僅かな部類に入る。
ベテランが持ってきたのであれば「この程度のものを何を自慢げに」と言われてしまうだろう。
しかし、キコリはロクに装備もない、しかも初挑戦で3個持ってきた。これには大きな意味がある。
「では、この魔石の買い取り額は3000イエンです」
「3000……」
「少なく感じますか? でも、これは正当な買取価格です」
「いえ。ありがとうございます」
3000イエン。1000イエンで一番安い宿だから3日泊まれる計算になるが……今のキコリには、足りないものが多すぎる。
多すぎるが……それらを揃えるには、お金が足りなさすぎる。
「あの……」
「はい、なんでしょう?」
「必要なものを揃えるには、何処のお店に行けばいいでしょうか?」
「そうですねえ」
キコリの問いに受付嬢は少しだけ悩むような様子を見せると、床を指さしてみせる。
「この建物、地下もありまして。そこで委託品を売ってもいますよ。仲介料がかかってる分少し高くはなってますが、冒険者ギルドによる品質保証付きです」
「なるほど……」
何かあれば冒険者ギルドが責任をとるということなのだろうとキコリは理解する。
まあ、割高なのは困るが……大体の値段を把握するには良いかもしれない。
「お店自体は町の中にありますから、気に入ったお店に直接行って買うのもいいと思いますよ」
勿論そっちには冒険者ギルドの保証はありませんけどね、と言う受付嬢。
確かにどちらが良いかは個人の判断次第ではあるだろう。
今のキコリには、その辺りの判断はできない。
「ありがとうございます。これから地下を見てきます」
「はい、行ってらっしゃい」
ヒラヒラと手を振る受付嬢に頭を下げて、キコリは地下への階段を下りていく。
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