観察力っていうのは
「とはいえ……今すぐには教えられません」
言いながら、アリアはパッとキコリを離す。
「え? それってどういう」
「別にイジワルしてるわけじゃないですよ? ただ単に、室内で使うには超危険なんです」
本にも載ってないですしね、とアリアは言いながらシチューの煮込み具合を確かめる。
「載ってないんじゃ仕方ないですよね」
「ええ。この前のソードブレイカーくらいなら練習もできますけど、ミョルニルはちょっと家も壊しちゃうし衛兵も来ちゃうので」
「そんなに……ですか」
「派手なんですよ、色々とね」
アリアはシチューの火を止めると、お皿に手早く盛っていく。
「まあ、明日教えてあげます。実地でね」
「実地ってことは……明日アリアさんも冒険に?」
「というか、クーンさんはお留守番で。教えてあげるのはキコリにだけです」
「いいですよね?」と聞いてくるアリアにキコリは「勿論です」と答える。
そもそも明日は冒険者ギルドでビッグゴブリンの件の結果について聞くつもりだったというのもあるが……それでも、クーンには誠心誠意謝るしかない。
「さ、ではシチューを食べましょうか!」
「はい」
テーブルに運んでシチューを一口食べれば「あ、これは勝てない」とキコリは思い知らされてしまう。
「美味しい……」
「でしょう? シチューは、ちょっと自信あるんですよ」
「俺が作ってもこうはならないなって思います」
「ふふふ、嬉しいです」
お世辞ではなく、本気だ。
キコリの前世知識を総動員したところで、こうはならないだろう。
シチューの中に溶け込んでいるチーズが味の手助けをしているというのはあるだろうが……それにしても美味しい。
ジャガイモの煮込み具合も完璧だ。
食感を残しつつもスプーンが簡単に通る柔らかさ。
というか、これは……もしや、自分の好みを把握されてやしないだろうか、とキコリは気付く。
「あ、何か気付いた顔してますねキコリ」
「いや、その……」
「ん?」
「もしかして俺の好みの味……把握してます?」
恐る恐る聞くキコリに……アリアはニコリと微笑む。
「キコリ。観察力っていうのは万事に勝つ為の最大の力ですよ?」
「把握してるんですね……」
「私的にはキコリにも私の好みを把握しておいて貰いたいですね」
「うっ……はい」
言いながら、キコリは部屋の調度品に視線を向ける。色は、白。
アリアは結構、白い物を身に着けてもいる。
だから……アリアはたぶん白色が好きなのではないか、というくらいでしかキコリはアリアの好みを把握していない。
それでは、あまりにも不誠実が過ぎるだろう。
「頑張ります」
「はい、期待してます。ちなみに白色は結構好きです。正解ですよ」
嬉しそうに笑うアリアに……キコリは本気で観察力を鍛える事を決めながら頷くのだった。
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