キコリはズルいですねえ

「ミョルニル……」


 その天才とやらはほぼ間違いなく転生者だろうな、とキコリは思う。

 前に本で読んだ英雄ショウとやらの「グングニル」や「グラム」と同じ命名パターンの香りしかしない。

 だから、キコリは聞いてみる。


「それって……あの英雄ショウとかいう」

「はい、大正解です。キコリが読んでたあの本には載ってないんです。創ったはいいけど、あまり使い道がなかったみたいですね」

「えーと……どんな魔法、なんですか?」

「簡単に言うと武器の攻撃力と使い勝手を引き上げる魔法ですね。武器に思い入れの無い人には向いてる魔法でもあります」


 キコリもミョルニルは前世の知識で知っている。

 確か雷神トールとかいう神様の武器で、しかしアレはハンマーだったはずだが……。


「なら、俺向きですね。大事にしてないわけじゃないですけど、そこまで武器に入れ込んでるわけでもないですし」

「ええ、そういう人には向いてますね。でも……」

「でも?」

「魔力の消費量は結構エグいですよ? キコリにも使えるとは思いますけど、たぶん1回きりじゃないかと。この手の魔法の特徴でもありますけど、魔力の強い人ほど大きい威力を発揮するように出来てるので」

「それでも構いません」


 たとえそうであろうと、アリアが愛用した魔法ならば……キコリも「そう」なるだろうという、予感じみた思いを抱いていた。

 だから、キコリはそれをそのまま素直にアリアに伝える。

 伝えずとも分かってもらえる仲だと、そんな思い上がってはいないからだ。


「アリアさんが信じた魔法だから、俺も信じられる。そう思うんです」

「キコリ……」

「俺は、あまり自分に自信はないけれど。それでも、アリアさんのことは信じてるんです。そんなアリアさんの使っていた魔法なら……俺も、自分の相棒に出来ます」


 だから、教えてくださいと。

 そう言うキコリに、アリアは鍋の火を止めてキコリにぎゅっと抱き着く。


「はー……キコリはズルいですねえ。そんな事言われて『やだ』なんて言える人、中々いませんよ?」

「でも、本気です」

「だからズルいんですよ。言葉なんて、幾らでも飾れるから普通はそんなに響かないんです。特に私みたいな『感情』を自分の武器にした人間は、そういう虚飾に敏感です」

「それは……」

「でもキコリのは本気だって分かります。だからズルい。だから愛しいんです。その方がキコリにとっていいって分かってるからやりませんけど、冒険者復帰したくてたまらないんですからね?」


 クーンさんが羨ましいです、と。

 そんな事を言うアリアに……キコリは「女の子と組んだりしたら何が起こるか分かんないな……」と、そんなほぼ正解であろう事を考えていた。

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