その為に覚えたいなって

 そして、翌日。

 キコリは後で合流するというアリアと別れ、クーンと共に冒険者ギルドに来ていた。

 早速イレーヌのいるカウンターへ行くと、何の話か気付いたのだろう。少し困ったような笑顔を向けてくる。


「おはようございます、2人とも」

「はい、おはようございます。その感じだと、もしかして……」

「ええ。残念ですが『本当に倒したのか不明。しかし発見と運搬の功績は認定する』とのことでして」

「そうなりましたかー……ま、仕方ないか」


 クーンがそう言うと、イレーヌも「ええ」と頷く。


「この件をこれ以上掘り下げると、確実に面倒ごとになります」

「それってやっぱり」

「うん、つまり……」


 キコリのアレを記録に残したくないってことだよ、とクーンはキコリに囁く。

 まあ、そうなのだろう。キコリの「破壊魔法ブレイク」が暗殺に使えるような魔法と判断されてしまったということだろう。

 当然すぐ側にいるイレーヌは聞こえているし事情も知っているが「概ねその通りです」と答える。


「アリアを通して正式に伝えることになると思いますが……キコリさんの『ブレイク』は禁呪指定になります。他者に教えないようにお願いしますね」


 禁呪指定。開発者と許可を受けた者以外は使用を厳しく制限される魔法のことだ。

 禁呪だけを集めた本にその存在が記載され、禁書庫に保管されるという……まあ、そういう類の扱いになるという宣言でもある。


「まあ、そういうわけでして。調査依頼の報酬に異常進化体の発見、運搬料金……合わせて50万イエンになります」

 カチャリと音をたてておかれたのは、4枚の10万イエン金貨と、2枚の5万イエン金貨だ。

「ありがとうございます」

 この報酬は2人で折半すると決めていたので、1人25万イエンずつ。

 ミルグ武具店であの鎧も買える金額だ。

「さて、と……キコリはこの後アリアさんと行くんだっけ?」

「ああ、ごめんなクーン」

「いいよ。キコリが強くなる分には僕も歓迎だし」


 今日は神殿にでも行ってくるよ、と言いながらクーンは去っていき……その姿をキコリとイレーヌは見守る。


「ああ、それとキコリさん」

「え、はい」

「その背中に背負ってる斧2本のことですけど」

「変、ですかね?」

「いえ。アリアが冒険者やってた頃はそうだったなーと思い出しまして」

「そうなんですか」

「ええ。たぶん今日何やるかも分かる気がします。アリアのアレは有名でしたし」


 なるほど、派手な魔法と言っていたし……そんな有名になるくらいにミョルニルを常用していたのだろうとキコリは納得する。


「使えるようになれば、たぶん2度とこういう事にはならないでしょうね」

「その為に覚えたいなって思ってるんです」


 そう言って、キコリはまずはミルグ武具店に鎧を買いに行くべく向かっていく。

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