そういうものだってのは
そして、ミルグ武具店で鎧を購入したキコリの姿は、まさに一新という感じであった。
バイザーヘルムに胸部鎧を含む各種のブラックメタル製の防具は、あしらわれた魔石も含めて勇壮な印象を醸し出す。
キコリが冒険者歴が浅いと思う者はほとんど居ないだろう。
その恰好で待っていると……鎧を着込み斧と丸盾を背負ったアリアが駆けてくるのが見える。
「お待たせしました、キコリ!」
「いえ。さっき来たところですから」
「それ、新しい装備ですね? 似合ってますよ!」
言いながら、アリアはキコリの鎧をジロジロと眺めまわす。
「なるほど、魔力チャージ方式の鎧……」
「み、見ただけで分かるんですか」
「これでも販売コーナーの担当なので。さ、行きましょ」
そうして2人で英雄門を潜り、森の中へ。
相変わらずモンスターの姿は見えないが……とりあえずは問題ないだろうか?
ガサガサとアリアに導かれるままに進んでいくと、アリアはそこで止まり振り返る。
「さて! ではキコリにミョルニルを伝授します……が、その前に!」
「はい」
「キコリは、あのブレイクとかいう魔法が禁呪指定になったことは聞きましたか?」
「聞きました。人に教えるなってことですよね」
「その通りです。これは使うなってことではありませんので、まずはそこを誤解しないでくださいね」
「はい。でも……あまり使わなくなるとは思います」
要は危険な魔法だと判断されているのだ。好んで使うつもりはない。
「まあ、大体の人はそう言います。そして新しい魔法への意欲が減少します。当然ですよね」
まあ、その通りだろうとキコリも思う。
新しい魔法を作ろうと、それが禁呪ですと言われてはやる気も失せる。
あまりにも当たり前の理屈だ。
「ですから、禁呪認定された魔法の開発者には支援金が支給されることになっているんです」
「支援金……ですか?」
「その通りです。ま、『これに懲りずに頑張ってほしい』とかいうお金ですね。この話題って結構繊細なので、私から説明してほしいと頼まれてます。お金も預かってるので、後で渡しますけど……結構な大金ですよ?」
「はあ……」
何か間違ってるんじゃないかな、とキコリは思わないでもない。
要は「次は禁呪にならない魔法を作ってね」ということなのだろうが……。
考えて、考えてもどうしようもない事だとキコリは溜息と共に考えを振り払う。
「そういうものだってのは分かりました」
「キコリはやっぱり頭が良いですね。これが何処かおかしい制度だって気付いた顔をしてます」
「いえ、その」
「禁呪を作れるのも才能です。それをもし意図的にでも大量に作れる人材がいるなら……そういう人物を、この制度は発見しやすいってことですね」
あまり吹聴しちゃダメですよ、と言うアリアだが……その言葉に、キコリはゾクリとする。
金に釣られて危ない魔法を作り続ける馬鹿には相応の未来が待っている。
アリアの言葉は……そういう意味だと、理解できたからだ。
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