1人の少年の話
「くっ……!」
数歩よろけながら下がったデスペリアは、驚愕の表情でアイアースを見る。
信じられない。そんな感情が透けて見えていたが、実際デスペリアには今起こった出来事が信じられなかった。
今目の前にいる「海嘯のアイアース」は中身は本物かもしれないが、身体はユグトレイルの力で作られた仮の肉体のはずだ。
ドラゴンとしてのものと比べれば数段……いや、比べ物にならないほどに劣るものであるはずだ。
それなのに、デスペリアの能力に耐えたというのか。違う、そうではない。そもそもの話でいえば、アイアースはデスペリアの能力に耐え続けている。
この楽園で眠りにつかない者などいないというのに、まずそこがおかしい。そしてデスペリアが能力の強度を上げた今でも耐え続けている。
正直、有り得ない話だ。しかし、その有り得ないことが今起きている。
気合いだとかそういう精神論では有り得ない。それ以外の理屈のつく何かがあるはずだ。
その「理屈」を……理由を探して、デスペリアは気付く。
「……そうか。破壊神の力。その欠片が貴方についてきているのですね」
「あ?」
「そんなものが貴方についてきているとは……外では一体何が起こっているのですか?」
言われて、アイアースは盛大に舌打ちをする。
「意味分かんねえことをべらべらと……だがまあ、話を聞く気になったのは進歩か?」
アイアースがそう言った瞬間、アイアースに絡みついていた眠気の類が全て消える。
「ん、頭がすっきりしたな……ようやく能力を解除しやがったか」
「ええ。貴方から色々と事情を聞く必要がありそうですからね」
先程の「どうでもいい」という態度とは違う、しかしより厄介な敵意混じりのデスペリアの様子にアイアースは大きな……とても、とても大きな溜息をつく。
本当にドラゴンというのはどうしようもない奴しか居ない。そんな自分のことを盛大に棚上げするようなことを考えながら、アイアースは「聞かせてやるよ」と告げる。
「といっても、テメエには1から10まで話す必要がありそうだからな。寝るんじゃねえぞ」
「聞きましょう。一体どんな事情があればそんなことになるのか……気になりますからね」
「おう、聞かせてやるよ。といっても『俺様が聞いた話』も入るがな」
そう、アイアースが話すのは1人の少年の話。
悪魔憑きと呼ばれ排斥され、命をかける冒険者などという仕事をするために果ての町「防衛都市ニールゲン」までやってきて。傷つき失いながら、誰もが簡単に手に出来るものを求め続けてドラゴンにまで至った、そんな少年の話であった。
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