楽園
「……ふむ」
その話を聞いたデスペリアが言い放ったのは、そんな一言だった。短い、聞く者にとってはどうでもよさそうにも聞こえるその一言はしかし、デスペリアにとっては万感の思いを込めた一言であった。
「なるほど、なるほど。そんなことが起こっていたとは。中々に悲惨ですね、その少年は」
「そんな言われ方は望んでねぇだろうよ」
「そうでしょうね。その少年……キコリでしたか? とても真面目に、そして全力で生きている。その人生を悲惨と呼ぶのはまあ、一般的には侮辱でしょうかね?」
言いながらデスペリアは、何度も頷いていた。そんなデスペリアにアイアースは目に見えてイライラしているが、我慢しているのは……まあ、アイアースにしては物凄いことだろう。
「で?」
「で? とは?」
「今後のことに力を貸すのかって聞いてんだ」
「ふむ……」
デスペリアは即答しない。しかしまあ、これはデスペリアにとっては当然のことではあった。
デスペリアは基本的に外の事情には関わらない。たとえそれが世界の存続そのものに関わることであったとしても……だ。
この場所にはシャルシャーンとて侵入は出来ない。此処がデスペリアの能力そのものであるからこそ、何処にでもいるシャルシャーンも此処では本当に「不在」となる。
そう、だからこそ此処に辿り着くにはユグトレイルのような完全なる異界を持つ者の協力を取り付けるしかない。
しかし逆に言えば、デスペリアのドラゴンとしての能力はそういうものなのだ。
破壊神だかなんだか知らないが、そんなものを相手にするようなものではない……と、そこまで考えて。デスペリアは気付く。自分の力をアイアースが借りようなどと言っているのは、恐らく別のドラゴンの差し金によるものだろうと。となれば、期待されている役割にも自然と気付く。
「ああ、そういうことですか。いずれの戦いのときに、巻き込まれる人々を楽園に招き入れろと。そういうことなのですね」
「他のことはお前にゃ誰も期待してねえだろうよ」
「ええ、そうでしょうとも。私に戦闘力を期待するのは無駄というものです」
勿論、デスペリアとてドラゴンだ。本人がどれだけ謙遜しようとも、その力は最強生物として相応しいものだ。
しかしそれでも他の戦闘特化のようなドラゴンと比べれば劣ることも事実であって。
それが事実であろうとも、他のドラゴンには出来ないこともデスペリアには出来た。
「ああ、なんという。しかしまあ、先程の話を聞いてしまっては協力しないのも寝覚めが悪い」
「力を貸すってことだな?」
「ええ、貸しましょう。貸しましょうとも。しかし、はあ……まあ、いいです。メンタルを整えるので貴方はさっさと帰ってください。先程の話にあったフレインの町とやらでいいですね?」
「おう」
楽園に開いた、空間の歪みのようなもの。それはフレインの町へと繋がる門であり……この楽園が世界の何処にでも繋げることの出来る、そんな場所であることの証明でもあった。
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