会話ってもんが出来ねえのか

 想定できていた反応だ。ドラゴンはどいつもこいつも人の話を聞かないからだ。

 アイアースとしては、別にどうということでもない。ない、のだが。


「いいから話聞けよテメェ。どいつもこいつも会話ってもんが出来ねえのか」

「貴方に言われるのは非常に心外ですが」

「うるせえ。話をしに来てんだよ。話をしろ」

「お断りします」


 デスペリアがそう言ったその瞬間、アイアースを強烈な眠気が襲う。先程からずっと感じていた休息への誘い。それがより強まったような感覚だ。

 だが、分かる。アイアースには分かるのだ。此処で眠ってしまったとしたら、下手をすれば元の世界に戻れない。短くても1年。もしかすると5年、10年、永遠。

 デスペリアの庇護下で永遠に幸せに眠り続ける……此処は、そういう場所だ。


「私は世界の終わりの瞬間まで此処にいます。そう、此処は眠りの国。不安に耐えられぬ者が眠りながら死する場所。だから、貴方も眠りなさいアイアース。何をそんなに急いでいるかは知りませんが、いずれ全ての不安は消え去るでしょう」

「ふっ、ざけ……」

「ふざけてなどいません。全ては時の経過で風化します。どんな衝撃も、悲しみも、喜びも、苦しみも……何もかもが消え去るでしょう。その刹那を何の不安もなく過ごしなさい。私がそれを見守りましょう」


 安心だ。何の心配もない。大丈夫。ほんの少し休むだけ。そんな感情がアイアースを揺さぶる。あらゆる全てを押し流し「大丈夫だから」と呼びかけてくる。

 思考が鈍り、視界が揺らぎ、足元が覚束なくなる。

 暖かな毛布にでも包まれているかのような暖かさが、その気持ちを加速させていく。

 眠っていい。此処で休んでいい。そんな思考だけがアイアースの中をリフレインする。


「さあ、おやすみなさい。さあ、お眠りなさい。今は全てを忘れなさい。大丈夫です。貴方1人いなくてもどうにかなりますし、どうにもならずとも世界が終わるだけです。そのときには眠ったまま全ては終わっているでしょう。その瞬間まで私は」

「うるせえ」


 アイアースが一歩踏み出す。眠い。眠い。眠くてたまらない。ここで寝てしまえという呼びかけがアイアースの中を蹂躙する。

 ほんの少しでもその声に耳を貸せば、アイアースは倒れ眠ってしまうだろう。

 それでも、アイアースはデスペリアを睨みつけ前へと歩く。


「……馬鹿な。ユグトレイルの用意したその仮初の器で、私の力にこれ程……」

「自慢じゃねえがよ。俺様は誰かにやれって言われて何かをやったことは1度もねえんだ」


 アイアースの拳が振るわれる。それはデスペリアの顔面に、しっかりと突き刺さっていた。

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