貴様は我にそう望むのか

「聞いて、くれるのか?」

「聞かん理由があるのか?」


 訳が分からない、といったような表情をしているヴォルカニオンに、キコリは気が抜けたようにハハッと笑う。


「いや、すまない。正直、もう話は終わったと言われるかと思ってた」

「相互理解が足りていないようだ」

「会ったばかりだしな」

「くくっ、その通りだ」


 一通り笑いあうと、キコリはヴォルカニオンに先程言おうとしていたことを口にする。

 ヴォルカニオンならば分かってくれる。そう思えたからだ。


「ついこの間、人間が『汚染地域』と呼んでるこの場所に、大きな変化があったんだ」

「ああ、理解している。ゴブリンどもが紛れ込んできたのもそれだろう」

「人間はこれを『迷宮化』と呼んでる。今まで理解してたルートが、全部滅茶苦茶になったんだ」

「うむ。それで?」

「この場所は今、人間の住む場所から相当近くなってる。此処に人間が来る可能性は大きいと思う」


 だから、とキコリは言う。


「そいつらが攻撃してこなかったら、でいい。見逃してやることはできないか?」

「出来ん」


 だが。ヴォルカニオンはキコリの予想に反して即座にそう断言する。

 何の迷いもない一刀両断だった。


「……え?」

「出来ん。此処に紛れ込んだ人間には例外なく我が炎をくれてやろう」

「え、あ、いや! 攻撃してこない人間だけでいいんだ! それなら俺が偉い人に伝えて」

「出来んと言ったぞ、キコリ」

「なんでだよ!」


 叫ぶキコリに、ヴォルカニオンは明確な拒絶の感情を叩きつけてくる。

 風が吹いたかのように錯覚するその威圧に、背後でオルフェが震えているのが理解できた。


「いいか、キコリ。たとえば貴様が人間の権力者と交渉して、我に攻撃させないという確約を得たとしよう」


 だが、とヴォルカニオンは続ける。


「交渉して『攻撃をやめていただく』のか? この我が? 『攻撃しなければ襲ってこない』と舐める連中を見逃せと? 我に、その侮辱に理不尽に耐えよと。キコリ、貴様は我にそう望むのか?」

「でも、それだと人間と際限ない戦いになる可能性だって! ヴォルカニオン、アンタは俺より頭の良いドラゴンだろう!? 争わない事の大切さだって分かるはずだ!」

「それで我が譲歩する必要性が何処にある?」

「それ、は」

「分かるはずだぞ、キコリ。お前は愚か者ではない。我にとって人間をどの程度に考えているかをな」


 言いながら、ヴォルカニオンはキコリの目の前で凶悪な牙の並ぶ口を開いてみせる。


「我は貴様にこうも言ったな? 自己の立ち位置を常に正確に把握しろ、と。キコリ、貴様はどの位置に立つつもりだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る