その時は歓迎してやる

「……俺は」

「ああ」

「俺は、たまたま不完全なドラゴンクラウンを手に入れただけの……人間だ」


 その返答に……ヴォルカニオンは、無言。

 それでも、キコリはヴォルカニオンから視線を外さない。

 そうしてはダメだと、そう感じたからだ。

 長い……長い、沈黙の後。


「ハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」


 ヴォルカニオンは、盛大に笑いだす。

 おかしくてたまらないと、そう言うかのように。


「なるほど、なるほど! ハハハハハ! 命拾いしたなキコリ!」

「え、ええ?」

「貴様がドラゴンのつもりで話をしているのであれば、ふざけるなと貴様を焼いていただろう!」


 そんなヴォルカニオンの言葉はきっと本気なのだろうとキコリは冷や汗を流す。

 だがなんとか、正しい返答を出来たらしい。


「キコリ。よく覚えておけ。ドラゴンとはエゴの塊だ」

「エゴ……」


 聞き覚えのあり過ぎるその単語に、キコリは思わずそう繰り返してしまう。


「ドラゴンであるが故にそうなのか。そうであるが故にドラゴンなのか。我等は我等の生きたいように生きる。そういう風に出来ている。そして、それを通せるだけの『性能』を持っている」

「ドラゴンはあらゆる環境に適応する最強種だから、だよな」

「その通りだ。言い換えれば我等は……」


 己のエゴを通すしか出来ない生き物。


 キコリとヴォルカニオンの言葉が重なって。再びヴォルカニオンが笑いだす。


「ハハハハハッ! なんだキコリ、もしや我の前に何処ぞのドラゴンと会ったか!?」

「違う。でも、俺はバーサーカーだから。バーサーカーは、こうと決めたことを何が何でも成し遂げる為に突っ走る生き物だから」

「そうか、そうか。その生き方は好ましいが……話を戻そう」

「あ、ああ」

「いいか。ドラゴン相手にドラゴンが、相手の好かぬ意見を通そうとする時。それは互いの存在をかけた争いになると心得ておけ」


 同族なのにか、とは問わない。

 人間だって同族同士で争う。それがドラゴンに適用されない理由は何処にもない。


「だが貴様は人間として我に譲歩を要求した。それはそれで言語にすると許し難いが……まあ、貴様の場合は許さんでもない」

「あ、ありがとう」

「ああ。今一度言うが、我は此処に立ち入る人間には例外なく炎を馳走する。それが嫌なのであれば、此処には立ち入るなと人間の権力者に伝えておけ。それと、貴様を通して我と交渉しようとするな、ともな」


 キコリが万が一にでも防衛都市に利用されないための気遣いなのだろう。

 それをなんとなく感じ取って、キコリはじっとヴォルカニオンを見つめてしまう。


「本当にありがとう、ヴォルカニオン。アンタは……本当に凄いドラゴンだ」

「賞賛は受け取っておく。それと、そろそろ来た方向に帰れ。妖精が恐怖でどうにかなってしまうぞ」

「えっ!? あっ」


 先程から一言も言わないのが脅えてのことだとは気付いていたが、そんなに限界だとは気付いていなかった。


「オルフェ! 今此処出るから! えっと……ヴォルカニオン、それじゃまた!」

「ハハハ! また来るつもりか! ならば言おう。その時は歓迎してやるとな!」


 振り向いてオルフェを両手で包み走るキコリの背中に、ヴォルカニオンはそう声をかけて。

 転移門を潜り消えていくのを見守ると……その首を、視線を……天へと向ける。


「不完全なドラゴンクラウン。ならばそれが完全になった時……キコリ、貴様の立ち位置は何処になるのだろうな?」


 その呟きは……当然、キコリに届くことはない。

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