この行動は間違ってはいない

 ヴォルカニオンの住む場所から戻れば、当然先程の豪雪地帯に戻る。

 だが……戻った瞬間、オルフェはキコリの手の中から飛び出した。


「バカバカバカバカバカバカ! 何ドラゴンと話し込んでんのよ! 何ドラゴン怒らせてんのよ! 死ぬかと思ったんだからね!」

「ごめん。でも、いいドラゴンだったじゃないか」

「でもじゃないのよ! あたし、ずっとずーっと『あ、死ぬ。今死ぬ』って思ってたのよ!」

「ごめんなオルフェ」

「うー……まあいいわ。許す!」


 オルフェはそう叫ぶと、またあの暖かい球状のフィールドを展開する。


「たぶんキコリが居ないとあたしも消し炭だっただろうし……」

「話してる限りじゃそうだよな」

「ドラゴンは大抵自分勝手だっていうけど……あんな視界に入ったら焼くぞみたいなドラゴンもいるのね」

「……オルフェは別のドラゴンに会ったことあるんだよな」

「まあね」

「どんなドラゴンだったんだ?」


 単純な興味からキコリがそう聞くと、オルフェは難しそうな表情になってしまう。

 聞いたら拙かったかな、とキコリが頬を掻いていると、オルフェは「うー」と唸る。


「あのドラゴンとは形が凄く違ってたわ」

「ふーん」


 キコリが想像したのは前世で「龍」とか呼ばれたタイプのドラゴンだが……オルフェの絞りだした言葉に「えっ」と声をあげてしまう。


「……あえて言うなら……クラゲ?」

「ドラゴンだよな?」

「ドラゴンよ。たぶん水に適応した結果そうなったんじゃないの? 知らんけど」

「色々あるんだな」


 巨大なクラゲにヴォルカニオンみたいな頭がついているのを想像しながら、キコリはコボルト平原の方向に向かって歩いていく。

 この雪も寒さもキコリにはほぼ意味がないのだから、もしかすると地図を作れるかもしれないが……その前に遭難する気がしたから、キコリは地図を作ってはいない。


「で、この後どうするのよ」

「ひとまず戻って報告だな。ヴォルカニオンのことを伝えないと」

「ふーん」

「……なんだよ。何かあるのか?」


 ドラゴン……ヴォルカニオンは滅茶苦茶強いのは間違いない。

 最強生物と言われるモノの一角だし、何より容赦も油断もない。おまけに頭もいい。

 そんなもの相手に、普通であれば挑みはしない。

 立ち入るなという伝言があるんだから、それを伝えて被害者を減らすのが最善だとキコリは考えている。

 オルフェの件で会った防衛伯だって、かなり道理の分かっている人に見えた。

 伝えない理由はないはずだ。

 はず、だが。オルフェの言葉にキコリは一抹の不安を抱く。

 そんなキコリにオルフェは、じっと視線を向けてくる。


「ないけど。善意を信じてるんだなって思っただけ」

「無条件に信じてはいないさ。そこまでガキじゃない」

「ふーん」


 この行動は間違ってはいない。

 その、はずだ。

 キコリは迷いながらも帰路を進んでいった。

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