強大なる、赤のドラゴンです
そうしてキコリが数日ぶりに防衛都市に戻ると、衛兵が「おっ」と声をあげる。
「キコリか。無事だったようだな」
「はい、戻りました」
オルフェの件もあってのことだろうが、すっかり名前を憶えられていることを少しばかり嬉しく思いつつも、キコリは頭を下げる。
そのまま通り過ぎようとするが、衛兵に「少し待ってくれ」と声を掛けられる。
「お前が戻ってきたら報告するように防衛伯様に言われてるんだ。悪いが、少しだけ待ってほしい」
「防衛伯様がですか?」
「そうだ。光栄なことだぞ、言ってみれば目をかけられてるんだ」
はい、と頷きながらもキコリは「そうだろうか」と心の中だけで思う。
目をかけられてるのかつけられてるのか。
どちらにせよ、何らかのめぼしい報告を期待されているか、あるいは期待する価値があるかどうか測られているのか。
どれであるにせよ、随分と重たいものだ。
そうしてしばらく門の内側で待っていると、護衛を連れたセイムズ防衛伯がやってくる。
「おお、キコリ。どうやら怪我もないようだな。何よりだ」
「はい、ただいま戻りました」
その場に膝をつくキコリにセイムズ迷宮伯は「良い良い、立って構わん」と声をかける。
「礼儀を弁えるのは良い事だ。大人でも出来ん者はいる……だが、君にそれをこの場で求めようとは思わんよ」
「はい、ありがとうございます」
思わないだけで礼を失していいとは言ってない辺りがポイントだな……とキコリは思うが、勿論口には出さない。
立ち上がり、再度セイムズ迷宮伯に礼をする。
「うむうむ、礼儀正しいな君は。で、だ。私が此処に来た理由については察しはついているかね?」
「何かしらの新発見をご期待されてのことかと考えております」
「その通りだ。無論新発見ばかりではあるのだが、君ならあるいは何か面白いものの1つも見つけたかと思ってね」
なんともプレッシャーだ、とキコリは思う。
キコリなどただの子供に過ぎないのに、随分と買い被られている。
しかも、成果を持って帰ってきてしまっている。
それを報告することで「どうなるか」を考えると憂鬱になりそうだが……言わないわけにもいかない。
「1つ、ございます」
「ほう! ハハハ、実はそこまで期待してなかったんだが……なんだね、今度は何を見つけたのかね」
「ドラゴンに会いました」
その一言に、空気が凍ったかのような沈黙が満ちる。
セイムズ防衛伯の表情も、すっかり固まってしまっている。
周囲の視線も、キコリとオルフェに向けられている。
「す、すまない。もう1回聞かせてもらえるかね?」
「ドラゴンに会いました。名前は『爆炎のヴォルカニオン』。強大なる、赤のドラゴンです」
響くのは驚愕の声。
ドラゴン。その単語が周囲へ、そのまた周囲へと伝播していくのに、然程の時間は要らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます