君は優しい少年だな

「ド、ドドドド……ドラゴン!?」

「はい」


 セイムズ防衛伯も流石にドラゴンという単語には平静さを保てなかったのか、明らかに挙動不審になってしまう。


「その、なんだ。ドラゴンが……居ると? 近くに?」

「立ち入れば殺すと。そう伝言を預かりました」


 言いながら、キコリはヴォルカニオンの住み家へのルートを伝えていく。

 立ち入れば殺す。その明確過ぎるヴォルカニオンからのメッセージと共に伝えられたソレに、セイムズ防衛伯はごくりと唾を飲み込む。


「……なるほどな。そこへの立ち入りは今すぐ禁止としよう」

「ありがとうございます」


 やはりセイムズ防衛伯に話してよかった。

 そう考えるキコリに「ところで」とセイムズ防衛伯は続ける。


「キコリ。君は……そのヴォルカニオンというドラゴンと話を今後も出来るのかね?」

「どういう、意味でしょうか」

「うむ。人の言葉を解し会話が出来るのなら……あるいはその妖精のように、と思ってな」

「難しいと思います」

「ほう?」

「俺を窓口に交渉しようとするな、と。そう言っていました」


 キコリの返答にセイムズ防衛伯は難しそうな顔になって、やがて溜息をつく。


「……そうか。まあ、その程度はお見通しというわけだ」


 本当に残念だ、と言うセイムズ防衛伯だが……もしヴォルカニオンからその一言を言われていなければ、人間側の使者にされていた可能性もある。

 それを考えると、キコリは嫌な汗が流れるのを感じていた。


「うむ……うむ。よく分かった。ドラゴンの件については、すぐに布告する。無意味に刺激する必要性を感じないからな」

「はい、ありがとうございます」

「ん?」

「え?」


 セイムズ防衛伯のあげた声にキコリが聞き返すと、セイムズ防衛伯はキコリをじっと見る。


「……いや。君は優しい少年だな」

「は、はあ」

「よし、ではすぐに各所に布告を開始だ!」

「はっ!」


 最低限の護衛を残し、あちこちに人員が散らばっていき……セイムズ防衛伯自身、そのまま歩き去っていく。

 その背中を見送ると、キコリは横に居たオルフェに「どういう意味だ?」と聞いてしまう。

 セイムズ防衛伯が何に引っかかったのか、「優しい」とは何なのか……分からなかったのだ。


「どうもこうも。アンタの立ち位置が何処か測りかねたんじゃないの?」

「ごめん、分からん」

「ドラゴンの要求を通すことに礼を言った。でも逆に考えれば人間側の被害を防ぐ素早い対応に礼を言ったようにも思える。で、アンタはドラゴンからの使者。つまり?」

「あー……ドラゴンの手下みたいにも聞こえるか」

「そういうこと」


 言葉って難しい。

 しかしキコリがヴォルカニオンに尊敬に似た感情を抱いているのも確かだ。

 なんともままならないと。

 そんなことを考えながら、キコリはアリアに会うために冒険者ギルドへと向かうのだった。

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