強さの象徴なんです
冒険者ギルドに到着すると、少しザワつく声が聞こえてくる。
「あいつがキコリ……」
「本当に妖精連れてやがる」
「ラッキーボーイ、か……」
「ていうか、なんだキコリって。明らかに偽名だろ」
色々と聞こえてくるが……なるほど、確かに「運」もあるだろう。
キコリが恐らく偶然でドラゴンクラウンを手に入れたこと。
それはキコリの人生で最大のラッキーといえる。
「偽名なの?」
「あー……両親がつけてくれた名前は違うな」
「ふーん」
「興味あるのか?」
「ない」
「そうか」
まあキコリ自身、前の名前は捨てている。
「その名前」で呼ばれても、違和感しか感じないだろう。
階段を降りて売店に行けば、ボーッとしていたアリアがキコリを見てガタッと椅子から立ち上がる。
「キコリー!」
「ただいま戻りました、アリアさん」
「お帰りなさい!」
強く抱きしめられて、キコリは「戻ってきた」という気持ちが強くなっていく。
そう、今のキコリの家族はアリアなのだ。それを強く自覚する。
とても大切な、姉のような人。それがキコリにとってのアリアだ。
「なんだかドラゴンが出たとかって上で大騒ぎしてましたけど、キコリは大丈夫でした?」
「大丈夫というか当事者というか……」
「当事者?」
「ドラゴンからの伝言持ち帰ったのが俺なんです」
「えっ」
そして軽くアリアに事情を話すと、アリアは「うーん」と唸ってしまう。
「……キコリのやったことは取れる手段の中では最適だと思います」
「よかった」
「でもそれが長期的に見て良い影響をもたらすかどうかは、ちょっと判断つかないですね」
「最適、なんですよね?」
どういうことだろうとキコリは思う。
最適なのに長期的に見れば良い影響か分からない。
それではまるで、どうやっても悪い方向にいってしまうかのようだ。
「ドラゴンっていう単語はですね……強すぎるんですよ」
「あー、それ分かる」
アリアにオルフェまで同意して頷くが、キコリには分からない。
「単語が強い、ですか?」
「そうです。『ドラゴン』という単語が混じるだけで全てのものに力が生じます」
たとえば、とアリアはその辺りに置いてあった剣を掴む。
「これはドラゴンキラーです。どうです? 強そうですか?」
「えっと……はい。ドラゴンを殺せる剣ってことですもんね」
「そうです。まあ、これはただの鋼の剣なんですが」
言いながら、アリアは剣を軽く叩く。
「ドラゴンっていうのは強さの象徴なんです。『ドラゴンの〇〇』……そういう風に、混ざるだけで言葉が強くなる。なら、会話は? 『ドラゴンに配慮して〇〇』とか……逆らえる気、します?」
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