黄金の呪い

 少し、考えて。キコリはゆっくりと首を横に振る。


「……しません」


 逆らえるはずもない。ドラゴンがそれを望んでいる。

 その言葉の大きさたるや、どれほどだろう?

 そして仕方ないとはいえ、自分がその「強い言葉」を使った事実にもキコリはゾッとする。


「つまり、俺がやったのって……」

「いえ、キコリの報告は『しなければいけないこと』だったと思います」


 アリアはそう言うと、小さく溜息をつく。


「ただ、それによってこの防衛都市に『ドラゴンの影響』が入った。それが今後どういう流れになるのか、全く予想できないです」


 ドラゴンは強い。そのドラゴンが「するな」ということがあるのであれば、当然「しない」がとるべき選択になる。

 だが……それを協定ととるか、抑圧ととるかで……様々なものが変わってくる。

 たとえば将来的に「ドラゴン討つべし」という無謀論が飛び出てこないとも限らない。

 それに、たとえばの話ではあるが。


「ドラゴンスレイヤーの称号を欲しがる馬鹿が出てくる可能性もありますしね」


 おとぎ話では悪いドラゴンを退治した英雄の話などはたくさんある。

 現実としてはドラゴンの討伐など夢見話だが……キコリと話をしたことで「つけ入るスキがある」と考える者が出ない……とは決して言えない。


「でも勝てない、ですよね? そんなのに挑む奴なんて」

「ドラゴンスレイヤーの称号は呪いみたいなものです。輝ける財宝に見えて誰もを引き付けるけど、手に入れようとする者を滅ぼす呪い。そう知っていてなお、手に入れたがる者が後を絶たない。そんな、黄金の呪いです」

「黄金の、呪い……」

「でも流石に防衛伯が禁止したモノを狙おうとする奴はしばらくは出ないでしょう」


 それを聞いてキコリは安心したように息を吐く。

 次に会う機会があった時に「本当に伝えたのか」と怒られたくはない。


「とにかく、今日はもう家で休んでてください。疲れたでしょう?」

「はい、ありがとうございますアリアさん」


 キコリは階段を登っていき、オルフェもその後を追っていくが……途中で振り返る。


「……何か?」

「確かにドラゴンは狙わないかもね。でも『代替品』は狙われるんじゃないの?」

「どうでしょう。私には何とも」

「喰えない人間ね。キコリに聞かせたくなかったの?」


 アリアは、無言。オルフェはフンと鼻を鳴らすと上の階へと飛んでいく。

 そう、オルフェの指摘は正しい。

 ドラゴンを倒せない。なら、自分がドラゴンスレイヤー足り得ると……そんな自尊心を満たす為にワイバーンを狙う者は現れるだろう。

 そしてそれを知れば、キコリはオルフェの為にワイバーンに挑みに行くかもしれない。

 アリアとしては……それは、止めておきたかったのだ。

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