こんなもんがいるとはね

「結構面倒な敵だったな」

「すぐぶっ壊すとか言ってたのにねえ」


 ニヤニヤと笑うオルフェから、キコリはサッと視線を逸らす。

 なんかこう、出来る気がしたのだ。出来なかったが。


「ま、気持ちは分かるけど。あのユグトレイルの世界での不自由さから解放されると、ねえ?」

「ん……まあ……な」

「しかし、こんなもんがいるとはね」


 ロックドールの残骸をジッと見ているオルフェにキコリが「何かおかしいのか?」と疑問を投げる。

 キコリとしては特に何もおかしさを感じなかったので、オルフェが何を気にしているか分からないのだ。


「ゴーレムとかって、基本的に魔力の高い場所にいるのよ。あのソイルゴーレムとかいうのもそうだったでしょ?」

「別におかしくはないだろ。此処もダンジョンの中なんだし」


 汚染地域の豊富な魔力が生み出すゴーレム、とソイルゴーレムについてはかつてイルヘイルで説明を受けていた。まあ、オルフェの前で汚染がどうのと言う気はないが、その理屈で言えば此処に豊富な魔力があっても何もおかしくはない。


「……頭、良かったでしょ? こいつ等」

「ん? まあな。まさかミョルニルに初見で対応されるとは」

「そういうのって、ただデカいより高性能ってことなのよ」


 ただデカい図体を動かすのは簡単なことだ。小さい身体であれば、もっと簡単だし必要魔力も少ない。

 しかしキコリのミョルニルに初見で対応して身体を切り離すようなことをやってくるとなると、話が大分違ってくる。

 そんなことが出来るのは相当以上に高性能なゴーレムであり、そんなものが自然に生まれるにはかなり高濃度の魔力が必要なはずだが、オルフェが見る限りこの場所はその条件に合っていない。

 そしてそんなものがこの場所で待ち構えるようにして転がっているのは、かなり異質な状況と言わざるを得ない。


「普通じゃない状況が複数重なるとなると、それはもう偶然じゃないよな」

「たぶんね。まさかドラゴンじゃないだろうけど」

「なんで言い切れるんだ?」

「……もし此処に何かドラゴンがいるようなら、あのヴォルカニオンがアンタに言わないと思う?」

「すげえ納得できた」


 オルフェの見る限り、ヴォルカニオンはかなりキコリを気に入っている。

 というより、あからさまなくらいに贔屓している。

 それがキコリというドラゴンの後輩に対するものなのかどうかまではオルフェには分からないし怖くてヴォルカニオン本人にも聞けないが、ユグトレイルの大体の居場所まで感じ取っていたヴォルカニオンが自分の領域の隣にいるドラゴンを察知していないとは思えない。

 その上でキコリが何も聞いていないということは、此処にはドラゴンは居ないのだ。


「無駄にドラゴンに詳しくなっていく気がするわ……」

「ハハッ、俺のことにも詳しいしな」

「うっさいわよバカ」


 そういう話はしてないのよ、と睨むオルフェにキコリは楽しそうに笑い……すぐにその表情を引き締める。


「まあ、ドラゴンがいないとしてもドラゴンの存在を疑うような相手がいるかもしれないのは確かなんだよな」

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