オークの集落

 油断していい理由など、1つもない。

 改めてその事実を胸に刻みながら、キコリとオルフェは進む。

 何度か襲ってきたロックドールを危なげなく撃破し、しかし疲労は溜まっていく。

 それだけ戦うのが面倒な相手であり、油断していい相手でもない。

 だが……およそ半日ほど戦い歩いた先に、キコリたちは切り拓かれた場所へと到達した。

 

「これは……村、か? いや、でもこれは」

「廃村かしらね。随分とまあ……」


 そう、それは集落だった。木々を削り、地面を整えて柵で囲んだ集落だ。

 だが侵入者を防ぐ柵は壊れ、門も破壊されたようにして崩れている。

 捨てられた村にしては、あまりにも壊れ方が激しい。そう、それはまるで……。


「襲撃された、みたいに見えるな。外側から叩き壊されてる」

「ロックドールどもかしらね。やけに数が居たし」

「かもしれないな」


 どの道、調べてみなければ断定など出来はしない。

 キコリたちは壊れた門から村の中に入ると、周囲を見回す。

 シンと静かな村には人は居ないように思えるが、そもそも此処に住んでいたのは「何」なのか。

 まさか人間が住んでいたわけではないだろう。ダンジョンになる前のものにしては新しい。

 しかし、だとするとモンスターが住んでいたということになるが……一体どのモンスターであったのか。


「オーク、かな? 似てる気がする」

「なによ、オークの集落見たことあるの?」

「ちょっとな。迷宮化した頃に見たくらいだけど」


 あの集落も小さいものだったが、かなり鮮明に覚えている。

 勿論、流石のキコリも攻め込むようなことはしなかった。向こうも積極的に襲ってはこなかったし、キコリたちもに万全の状態の強敵の集団相手に戦いたくなかったからだ。

 さておき、この村の建物の様式、そして大きさはあの時に見たオークのものと似ていた。


「建物は大きく、入り口は特に大きく作ってある。窓はあるけど小さい。中までは見たことないけど……」


 言いながら適当な家の中を覗けば、家具らしきものはほぼ無い。非常にシンプルなものだ。

 必要最低限のものがあればいいのか、家具を邪魔と思うタイプなのか。そこまでは分からない。

 しかし、それより目についたものがある。


「……乾いた血の跡」

「確実に死んでる量ね。引きずった跡もある……移動させた奴がいるのね」

「オークの死骸を? だとすると人間がやったわけでもないよな。魔石以外に用があるとも思えない」


 たとえばオークの何処かの部位に何かしらの需要があったとして、その部位を奪った死骸が外に放置されているわけでもない。

 となると恐らく、オークの死骸を運んだ何者かは「それ」自体に何かしらの用があったということになる。

 だが此処に残されたものだけでは、それを推察することは不可能に近い。


「そうね。一応他も見てみましょ。何か分かるかもしれないわ」

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