多少はマシな空気
キコリはルヴの斧を構えると、素早いステップでウルフライダーの前に躍り出る。
「ギ!?」
「死ね」
ズドンと。一撃でゴブリンを真っ二つにして次へと迫る。騎手を失ったウルフはオルフェの火の魔法が一撃で黒焦げにして、そのままキコリは次のウルフライダーへと迫っていく。
「おお……」
「凄いな、あれは」
ウルフライダーを連携して迎え撃っていたドワーフたちも、キコリたちをチラリと見てそう評する。
冒険者として戦いを生業にしているからこそ、キコリたちの実力を理解できるのだろう。
だがそれでも戦闘中だ。ドワーフたちは各々の武器を構えウルフライダーへと向かっていき、やがてその全てを倒し切ると、キコリたち以外の全員が安堵の息を吐く。
「はあー……ライダー系は面倒だな」
「ああ。連中、無駄に頭がいいからな。だが今回は……」
ドワーフたちの視線が向くのは、キコリたちだ。オルフェが即座に睨み返すが、そんなオルフェをキコリが押さえる。
「ちょっとキコリ」
「いいから」
そんなことを言い合っていると、ドワーフたちがゾロゾロとキコリたちのほうへと歩いてくる。
そのうちの1人が、更に一歩前へ出て……ごほんと咳払いする。
「……『岩砕き』のベルだ。結構やるな、お前」
「そっちこそ。俺は『死王』のキコリだ。こっちはオルフェ」
「今回はお前たちの活躍が一番凄かった。だが、次は負けん」
「次も勝つさ」
「フン、たいした自信だ」
言いながらベルと他のドワーフたちは馬車に戻っていくが……オルフェが「何あれ」と毒づく。
「認めるってことなんだろ」
「キコリがそう思ってるだけじゃないの?」
「ハハ……」
どうやらオルフェの中でドワーフの評価が著しく下がったままのようだが……キコリとしては、そこまで何かを感じるような出来事でもなかった。
獣人の最初の頃の対応よりは余程マシだし、あまり最初から期待もしていなかった。
期待しなければ、落胆することも怒ることも何もない。だからダンとゼンの2人は良い人だとは思っても、その2人はドワーフの基準だなどとは微塵も思ってはいなかった。
だが、それでも……どうやら、話くらいは出来そうだ。話が出来るのであれば、情報収集も出来る。
出来ずとも、人間の国へ……セノン王国へ行くことは出来る。ならば、それでいい。
ガタゴトと揺れる馬車の中は、それまでよりは重苦しかった空気が改善されていたが、会話が一気に増えたというわけでもなく。
それでも、多少はマシな空気の中、キコリたちはアダン王国の王都ガダントへ到着したのだった。
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