デミユグドラシル

 ゾン、と。凄まじい音をたててキコリの斧がドンドリウスを両断する。

 オルフェのフェアリーケインを防いだドンドリウスの土人形は、かなりの魔力を籠めていたはずだが、キコリの斧がそれを断ち切った。

 それはつまり、それだけの魔力を籠めているということであり、キコリがそれだけの無茶をしているということでもある。


「フゥー……」

「ほんと無茶するんだから。でもこれだけやれば、流石に諦めるでしょ」


 オルフェがヒールをかけるべくキコリに近寄っていく。

 ドンドリウスがどういうつもりかはさておき、土人形を送ってくるということはキコリと命を賭けて殺し合いをするつもりではない。そうオルフェは考えていた。

 ゼルベクトだかなんだか知らないが、先程の強い人形を倒したからには殺すのはかなり難しいと悟ったはず。

 だから、此処で諦めろと。オルフェはそう祈って。


「諦めるはずが、ないだろう?」


 遠くに見えていた山の1つが鳴動して、巨大な……あまりにも巨大なゴーレムに変わっていく。

 それは人型ではあったが、あまりにも大きすぎた。

 あのソイルレギオンですら小さいと思えるほどの、そんな巨体は天を衝く、という言葉が恐らくはピッタリであるだろう。

 

「それが本体か? ドンドリウス」

「真の姿、という方が正しいだろうな。この身体を使ったのは本当に久しぶりだ」

「……随分使わなかったんだろ。それこそ、土が積もって木が生えるくらいに」

「何が言いたい」

「いや? ただ……お前の上に生えてた木の中にも、足元にも……色々と混ざってるのには気付かなかったか?」

「何だと……む!?」


 言われてドンドリウスは気付く。自分に群がる木の群れに。いや……木に混じっていた無数のトレントの群れにだ。


「こ、こんなもの!」


 ドンドリウスはトレントを振り払い、当然その力に耐えきれずにトレントたちはバラバラになって壊れていく。だが……その壊れたはずのトレントたちが、そして残ったトレントたちが寄り集まり1つの巨大なトレントの姿を為していく。

 それはドンドリウスほどではないが、とんでもなく巨大な……世界樹の如きトレントだった。


「ユグトレイル……? いや、違う。デミユグドラシル……!? 何故こんなところに!」

「ドレイクたちから聞いたんだけどさ」


 そう、それはドレイクたちと旅をした数日の間に聞いた真実。

 この緑多き場所は、元々はドレイクの住処ではなかった。此処には元々、トレントたちと……それと共に過ごす者たちの領域だった。

 その者たちが事情があり去った後、トレントたちが守り続けた場所にドレイクたちは移り住んだだけ。

 その間もトレントは変わらずこの場所を守り続け……そうして至っていたのだ。

 トレントとしては最上位とも言える、世界樹に最も近い存在のモンスター「デミユグドラシル」として。

 そしてデミユグドラシルは今……この地を荒らしかねないドンドリウスを、明確に敵と見做したのだ。

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