世界一有名な、その技の名は
「ギオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「う、おおおおおお!?」
デミユグドラシルの伸ばした木の根が地中からドンドリウスへと襲い掛かり、その身を拘束し砕かんとする。
当然だが、デミユグドラシルではドンドリウスには敵わない。敵わないが……そんなことはデミユグドラシルにしてみれば知ったことではなく、果敢に襲い掛かっていく。
そしてドンドリウスからしてみればこんな場所でデミユグドラシルに襲われるのは予想外だった。
勿論、倒すこと自体は難しくはない。難しくはないが……。
(デミユグドラシルというのが問題だ……! 此処まで育っているならばユグトレイルが把握している可能性もある……! となればコレを殺せばあの偏愛者を敵に回す可能性がある……!)
そう、ドンドリウスはユグトレイルというドラゴンをよく知っていた。あの自分の気に入った相手を過保護なほどに守り、叶えられる願いを自分の良識の範囲内で叶えようとする……平たく言えば「愛が重い」ドラゴンだ。
愛の性質としては無償の見返りを求めない「慈愛」の類であるのだが、その愛の重さに気付き誰もが離れていく。そんな離れた相手にも愛を忘れず、加護をつけることで存在を何となく把握しているのがあのドラゴンなのだ。
そしてもし、このデミユグドラシルについてユグトレイルが把握していたならば。殺すことで間違いなく何らかの報復行為に出てくる。そうなったユグトレイルに理屈は完全に通じない。
(拙い……拙い拙い……! そもそも彼等はどうしてコレの存在を把握できた!? いや、まさか……ユグトレイルの加護!? あの偏愛者め、確かに微弱だが感じるぞ……! となると、くそっ! 私の目的を遂げるとアレを敵に回す……!? いや待て。誰がやったかまでは分かるまい。ならば……!)
ズドン、と。凄まじい威力の拳でドンドリウスはデミユグドラシルを吹っ飛ばす。
大地を砕きながら飛んでいくデミユグドラシルをそのままに、ドンドリウスはキコリたちのいる方へと視線を向ける。
とにかくキコリを最優先で殺す。それだけを考えて……自分を撃つ光線に気付く。
「またあの魔法……! だが効かん!」
一撃で消え去った光球。だが、本命はそれではない。稼ぎ続けた時間。その間にキコリはソレの構築を終えていた。
それはある種の破壊力の究極。ドラゴンのみが使える文字通りの必殺技。
世界の魔力を無尽蔵に引き出すからこそ可能な、そしてドラゴンの数だけ種類のある特殊技能。
その名前は。世界一有名な、その技の名は。
「ドラゴンブレス……これまでの全ては、チャージの時間を稼ぐための!」
「そうだ、ドンドリウス。お前を殺す気で倒すって決めた時……これより良い手は思いつかなかった」
土人形相手では使う意味がなかった。
確実に本体を引きずり出し、キコリが反動で死ぬギリギリの威力まで高めなければならなかった。
そのチャージの時間を、稼がなければならなかった。
そして……確実に当てなければならなかった。次弾など、命がもう1個なければ撃てはしない。外せば死ぬだけだ。けれど。そう、けれども。
「お前がデカくてよかったよ。これなら、どれだけ俺が下手でも外さない」
その雷球を、解き放つ。放たれた極光のドラゴンブレスは……回避しようとしたドンドリウスに、確かに突き刺さった。
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