愚かさの果て

 そうして案内された部屋に、1人の女が立っていた。

 年はおおよそ20から30前後といったところだろうか。

 黒い髪と、同じ色の目はまるで闇の色のような美しさだ。

 高い布地で出来ていそうな、金糸や銀糸もふんだんに使用した服。

 着けている指輪も大きな宝石がつき、恐らくは高価なのだろう……ギラギラと輝いている。

 そして……キコリはその姿に、というよりも格好に見覚えがあった。


「……あの屋敷の骸骨?」

「あー、あれか! 確かに同じ感じだなあ」


 キコリの呟きに、ようやく思い出したといった風のアイアースだが、そう……あの内部構造が無茶苦茶になった屋敷の骸骨と同じ格好をしているのだ。

 まさか「たまたま同じ格好をしている」別人というわけではないだろう。

 しかし、それであるならば一体なんだというのか?

 そしてアイアースが大声をあげたせいで完全に周囲に聞こえている。

 ……だが執事アウルはプッと吹き出しているし、女は何でもなさそうな顔をしている。


「アレを見たのか。あの愚かさの果ての骸を。そうか、今は骨になっているか」

「なんで同じ格好を? 貴方は、一体誰なんですか」

「ドラゴンよ。私に礼儀など要らん。ドラゴンにそんなものを弁えられると恐ろしくて寒気がする」


 この町では冗談だと思われている「ドラゴン」を本気で受け止めている。それが恐らくはこの女の実力なのだろうが、キコリは1つ息をはいて女へと向き直る。


「分かった。俺はドラゴンのキコリ。こっちはアイアース。それと妖精女王のオルフェと、ハイオークのドドだ」

「おかしな組み合わせだ。しかし、これからあるべき理想形の1つなのかもしれん」


 1人納得したように女は話すが、それが気に入らないのかアイアースが舌打ちを1つすると女はあからさまにビクリと震える。しかしそこはプライドなのだろうか、すぐに平静を保つ。


「私はこのフレインの町の町長のミレイヌ。種族はレイスロード。まあ、ゴーストの中でもかなり上位と考えてくれればいい」

「ゴースト……にしては実体があるように見えるのはレイスロードの特徴なのか?」

「そういうことだ。レイスともなれば魔力で実体を作れるようになるが、レイスロードはより高度なものを作れる。まあ、ドラゴンの御業と比べれば児戯に過ぎんが」


 キコリにはそんなものは出来ないから曖昧に頷くが、シャルシャーンがそれらしきものをやっているのは見たのでどういうものかはキコリにも分かる。


「で、キコリが見たっていう骨と同じ格好をしてる理由は何なのよ?」

「妖精女王よ、そんなものは簡単だろう」


 ミレイヌはオルフェに微笑むと、自分の胸元に手を置く。


「あの愚か者の全てを奪ったのが私だ。同時に義務も負ってしまったがな」

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