人間なんてそんなもんだって
扉を開けると、そこはダイニングだ。
大きな机と椅子、そしてキッチンと……本棚にソファもある。
奥の扉は1つはトイレ、もう1つはお風呂だ。
魔石もしっかりとチャージされている辺り、念入りに準備されたのが伺える。
階段を登ればそこは広い寝室で、此処にもソファと本棚がある。
前に使っていた人物が余程本好きだったのだろうか、本棚は壁に固定されていて動かせそうにはない。
「本の内容は……色々だな。魔法の教本に冒険者用の技能解説書、薬草辞典にモンスター辞典……なんかこの竜神の聖典だけは妙に新しいな」
「混ぜたんでしょ」
「だろうな」
苦笑しながら、キコリは本の背表紙をなぞっていく。
どれもかなり勉強になりそうな本だ。暇を見て読んでいくのがよいだろう。
ジャンルが色々なのは、キコリの為を思って此処を用意してくれた人……竜神の神官か、その関係者が揃えてくれたのだろう。
本当に助かるとキコリは思う。
どう見ても「普人」であるキコリにフラットに接してくれるだけで、彼等……蜥蜴獣人はかなり信用できる、頼れる人々であることは充分に分かっている。
だからこそ、同時に危険でもある。
彼らのほとんどが竜神信仰者である以上、キコリがドラゴンであることが知れた時にどうなるか分からない。
ニールゲンでの面倒ごとを解決するための時間潰しと友好の為に来ているのに、此処でも有名になりましたでは意味がないにも程がある。
つまるところ、蜥蜴獣人にも必要以上は頼れない。
「ふー……ままならないな。エルフの国だったらなあ」
「エルフだったらどうなるの?」
「あー……」
オルフェに聞かれて、キコリはエルフがどういう種族だったか思い返す。
確か、エルフは。
「……」
本棚に刺さっている「種族辞典」を引き出し捲る。
エルフ。
ライトエルフとダークエルフ、あるいは各種のハーフなどを指す。
魔力と手先の器用さに優れる長命種であり、エルフ以外の全てを見下す傾向がある。
ライトエルフとダークエルフの確執については……。
「……見下すんだって」
「……だな」
「で、エルフの国だったらなんだって?」
「ちょっと待った」
ドワーフ。
力と体力、集中力に優れる長命種であり、ドワーフ以外の全てを見下す傾向がある。
全体的な特徴として鍛冶に優れ……。
水棲人。
過去には魚人などとも呼ばれていた。
陸上、水中のどちらでも活動可能であり、どちらかでしか生きられない相手を見下す傾向がある。
「……」
「人間なんてそんなもんだって、キコリ」
ポン、とキコリの肩を叩くオルフェが妙に優しいのが、逆にキコリには「効いて」いた。
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