ジオフェルドには感謝しなければ

「……ま、いいか」


 キコリは本を閉じると、棚に戻す。

 むしろ何処に行っても似たようなものだと分かっただけマシというものだ。


「夕食はどうするかな……」

「作ればいいじゃん。向こうでも作ってたんだし」

「……それもそうだな」


 まずは食材を買わなければならないが……ジオフェルドが居ない状態で売ってくれるだろうか?

 今回はギザラム防衛伯のペンダントもあるし、然程問題は起こらないと信じたいところではあるのだが。

 台所を探してみると、幾つかの調理器具と調味料などは揃っている。

 それとナッツが小さな樽一杯に入っていて、オルフェが「あれ、あたしのかな」と言っている。

 たぶん違うが、別にそれでもいいかなとキコリも思わないでもない。


「とりあえず買い物に行こうか。何にする?」

「野菜と果物」

「……シチューとリンゴでいいか?」

「いいわよ」


 家を出て、鍵をかけて。ふと、キコリは思う。

 そういえば生鮮食品も売っている露店はキコリが初日にもめた場所にあったはずだ。

 となると、そこがどうなっているとしてもあまり近づきたくはない。

 ならば、ジオフェルドと回った辺りを探すのが一番いいだろう。

 そう考えて、キコリは町を歩くが……どうにも視線が突き刺さる。

 興味深そうな視線もあるが、敵対的な視線もある。

 蜥蜴人が歩いているのも見るが、こちらはキコリに何の興味もなさそうだ。

 視線が合うと会釈してくる辺り、他よりはずっと良い。

 そうして店舗の並ぶ辺りにつくと付近の店主はキコリを嫌なモノを見る目で見た後、何人かの店主はハッとしたような表情になる。

 それがジオフェルドと回った店の店主か、その近くの店主である事は明らかで……「何を警戒しているか」が非常に良く分かる。


「……あの蜥蜴のおっさん連れて来れば?」

「買い物の度についてきてもらう訳にもいかないだろ。まあ、万が一の時は……な」


 オルフェとキコリはそう言い合いながら、近くの食料品店に近づいていく。

 その店主は如何にも嫌そうな顔で「いらっしゃい」と言うが……まあ、商売する気があるならキコリとしては構わない。


「イモを3つと白菜1つ、それから人参を1つ。あと林檎を2個頂けますか?」

「……アンタ、竜神官とはどういう関係だ?」

「いつでも来てくれと言っていただける程度の仲です」

「1200イエンだ」

「それと牛乳が欲しいのですが、どの店に行けば」

「悪いがうちは案内所じゃないんだ。自分で探してくれ」


 チッと舌打ちする店主に「そうですか」と言いながらキコリは代金を払う。

 ジオフェルドの名前が随分と「効いて」いるようだが……見えやすいように胸元にかけているギザラム防衛伯のペンダントは目に入らなかったようだ。

 あるいは目に入ってもそうとは分からなかったのか。

 その辺りは分からないが……ジオフェルドには感謝しなければ、と。

 そんなことをキコリは考えていた。

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